はじめに:DNAの複製とは?

私たちの体は、もともと1個の受精卵から始まりました。それが細胞分裂を繰り返して、約37兆個もの細胞になります。驚くべきことに、それらの細胞のほぼすべてがまったく同じ遺伝情報(DNA)を持っています。
細胞が分裂する前には、あらかじめDNAの完全なコピーを作る必要があります。この現象をDNAの複製と呼びます。「分子や酵素の名前がたくさん出てきて難しそう…」と感じるかもしれませんが、大丈夫です!基本のルールを押さえれば、パズルのようにすっきりと理解できます。

※なお、作られたDNAの遺伝情報を使ってタンパク質をつくる過程(転写・翻訳)については、別章「転写・翻訳とスプライシング」で詳しく学びます。

1. 前提の確認:DNAの構造と基本ルール

DNA複製の仕組みを見る前に、前提となるDNAの重要ルールをおさらいしておきましょう。

① 相補的な塩基対合

DNAはヌクレオチドが長く鎖状につながったもので、2本の鎖が向かい合ってねじれた二重らせん構造をとっています。向かい合う鎖の塩基どうしは、決まった相手としか結合しません。
・アデニン(A)とチミン(T)が結合
・グアニン(G)とシトシン(C)が結合
この決まりを塩基の相補性といいます。片方の鎖の配列が「A-G-C-T」であれば、もう片方は自動的に「T-C-G-A」に決まります。この性質があるからこそ、DNAは正確に自分と同じものを複製できるのです。

② 鎖の方向性(\(5'\)末端と\(3'\)末端)

ヌクレオチドのデオキシリボース(糖)には炭素番号(\(1'\)から\(5'\))がついています。リン酸がついている側を\(5'\)末端(ごープライムまったん)、糖のヒドロキシ基(\(-OH\))が出ている側を\(3'\)末端(さんプライムまったん)と呼びます。
DNAの2本鎖は、互いに向きが逆になっています(逆平行)。一方が「上から下へ \(5' \to 3'\)」なら、向かい合う相手は「上から下へ \(3' \to 5'\)」となっています。

【ポイント】
DNAの鎖には向きがあり、2本鎖は逆向きに向かい合っている(逆平行)。そして、塩基は必ず「AとT」「GとC」がペアになる!

2. 半保存的複製

DNAが複製されるとき、元の2重らせんがほどけて1本ずつの鎖に分かれます。そして、それぞれの鎖を鋳型(いがた:お手本のこと)として、相補的な新しい鎖が合成されます。
その結果、新しくできた2組のDNA二重らせんは、どちらも「元の鎖1本」と「新しく合成された鎖1本」の組み合わせになります。元の鎖の半分がそのまま保存されているため、この方式を半保存的複製と呼びます。

【豆知識】
半保存的複製の証明には、大腸菌を窒素の同位体(重い窒素\(^{15}\mathrm{N}\)と通常の窒素\(^{14}\mathrm{N}\))の中で何代も培養して遠心分離する有名な実験(メセルソンとスタールの実験)が用いられました。共通テストのグラフ問題でも頻出のテーマです。

3. DNA複製の詳しい仕組み

複製の現場では、どのような酵素が働いているのでしょうか。主役となる酵素がDNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)です。

主役:DNAポリメラーゼの2大特徴

DNAポリメラーゼには、とても重要な2つの「クセ」があります。ここが共通テストでの最大の頻出ポイントです!

ルール1:新しい鎖を \(5' \to 3'\) の方向にしか伸ばせない
DNAポリメラーゼは、新しく合成する鎖の\(3'\)末端にしか新しいヌクレオチドをつなげることができません。つまり、新しい鎖の合成方向は必ず \(5' \to 3'\) に限定されます(鋳型鎖をたどる向きとしては \(3' \to 5'\) に進みます)。

ルール2:何もないゼロの状態からは合成をスタートできない
DNAポリメラーゼは、足がかりとなる短いヌクレオチド鎖がないと合成を開始できません。そのため、まず足がかりとなる短いRNA鎖が作られます。この足がかりをプライマーと呼びます。DNAポリメラーゼは、プライマーの\(3'\)末端を見つけて、そこからDNAの伸長を開始します。

【よくある間違い】
合成の方向が「\(5' \to 3'\)」なのか「\(3' \to 5'\)」なのか、本番で迷ってしまう受験生が非常に多いです!
覚え方のコツは「合成はGO!(5から3へ進め!)」です。新しく作られる鎖が \(5' \to 3'\) の方向へ伸びます。

連続的な合成と不連続な合成

DNAがほどけていくとき、2本の鎖の向きが逆平行であるためにドラマが起こります。

① リーディング鎖(連続的な合成)
DNAの二重らせんがほどけていく進行方向と同じ向き(新しい鎖としては \(5' \to 3'\))に連続して合成が進む鎖です。プライマーが最初に1つ作られれば、DNAポリメラーゼはほどけていく波に乗ってスムーズに一気に合成を続けることができます。

② ラギング鎖(不連続な合成)
もう一方の鎖では、ほどけていく向きとDNAポリメラーゼが進むべき向き(\(5' \to 3'\))が正反対になってしまいます。そのため、少しほどけるたびにプライマーを作り、ほどける進行方向とは逆向きに、少しずつ断片を作っては戻り…という飛び石のような合成を繰り返します。
このときできる短いDNA断片を岡崎フラグメント(おかざきフラグメント)と呼びます(日本人研究者の岡崎令治・歌子夫妻によって発見されたため、世界共通でこの名がついています)。

仕上げ:一本の長い鎖へ

ラギング鎖の岡崎フラグメントの間にあるプライマー(RNA)は最終的に分解・除去され、DNAに置き換わります。そして、バラバラだったDNA断片どうしがDNAリガーゼ(DNA連結酵素)によってつなぎ合わされ、完全な一本の鎖が完成します。

【ポイント:DNA複製のステップまとめ】
1. DNAの2本鎖がほどける。
2. 足がかりとなるプライマー(RNA)が合成される。
3. DNAポリメラーゼが新しい鎖を \(5' \to 3'\) の方向へ合成する。
 ・ほどける方向と同じ向きに進む = リーディング鎖(連続的)
 ・ほどける方向と逆向きに細切れに進む = ラギング鎖(不連続、岡崎フラグメントができる)
4. プライマーがDNAに置き換わり、断片どうしがDNAリガーゼで連結されて2組の完全な二重らせんができる。

4. 細胞周期とDNA複製のタイミング

細胞が分裂して新しく生じた細胞が、再び分裂するまでの周期を細胞周期と呼びます。DNAの複製は、細胞周期のいつでも行われているわけではありません。

細胞周期は大きく分裂期(M期)と間期に分かれます。間期はさらに以下の3つの時期に分かれています。
・\(G_1\)期(DNA合成準備期):DNA合成に必要な物質を準備する時期
・S期(DNA合成期):ここでDNAの複製が行われる!
・\(G_2\)期(分裂準備期):細胞分裂の準備をする時期
したがって、細胞内のDNA量は、S期を通過することで2倍になります。

【よくある間違い】
「DNAの複製は分裂期(M期)に行われる」と誤解しがちですが、分裂期は凝縮した染色体を分配する時期です。DNA複製は分裂前の間期の「S期」に行われることを確実に覚えておきましょう!

理解度チェック!一問一答

Q1. DNAポリメラーゼが新しくヌクレオチド鎖を合成する方向は、\(5' \to 3'\) と \(3' \to 5'\) のどちらですか?
A1. \(5' \to 3'\) の方向。

Q2. ラギング鎖で合成される短いDNA断片の名前は何ですか?
A2. 岡崎フラグメント。

Q3. 複製後のDNAが、元の鎖1本と新しく合成された鎖1本から構成される複製様式を何と呼びますか?
A3. 半保存的複製。

Q4. DNAポリメラーゼが合成を開始するために必要とする、足がかりとなる短いRNA鎖を何と呼びますか?
A4. プライマー。