不正行為と犯罪的行動の導入

ようこそ!企業・ビジネス法(LW)の学習も、いよいよ最終セクションです。これまでの契約や会社設立の話から少し離れ、ビジネスの「ダークサイド」に目を向けてみましょう。ここでは、私利私欲のためにシステムを悪用しようとする者に対し、法律がどのように対処するのかを探ります。会計士を目指す皆さんにとって、この章は非常に重要です。なぜなら、皆さんは金融犯罪に対する最初の防衛線となるからです。法律用語が難しく感じられるかもしれませんが、大丈夫です。シンプルなストーリーと覚えやすいルールに分解して解説していきますね!

1. インサイダー取引(Insider Dealing)

カードゲームをしている最中に、鏡越しに相手の手札が見えてしまったらどうでしょう? 不公平ですよね。インサイダー取引(内部者取引)とは、まさにビジネス界におけるこれと同じことです。公開されていない「秘密」の情報を利用して、一般の人々が知る前に株式市場で利益を得る行為を指します。

「内部情報」とは何か?

内部情報としてみなされるには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
1. 具体的かつ明確であること(単なる噂話ではない)。
2. 非公開であること(ニュースや公的なチャネルでまだ発表されていない)。
3. 価格に影響を与えること(公になれば、株価が上がったり下がったりする可能性が高いもの)。

3つの主な犯罪行為

1993年刑事司法法(Criminal Justice Act 1993)に基づき、以下の3つのパターンが犯罪となります。
- 取引(Dealing): 内部情報に基づいて株式を売買すること。
- 推奨(Encouraging): 秘密を知った上で、「今すぐX社の株を買うべきだ」と友人に勧めること(たとえ秘密の内容そのものを伝えなくても犯罪になります)。
- 開示(Disclosure): 秘密を他人に漏らすこと(ただし、法務顧問に伝えるなど、業務遂行上の正当な理由がある場合を除く)。

免責事由はあるの?

はい、あります!以下の場合には犯罪にはなりません。
- 利益を得たり、損失を回避したりする意図がなかった場合。
- その情報がすでに公開されていると信じていた場合。
- ニュースに関わらず、元々売買する予定があった場合(例:その日に株式を売却する法的契約を結んでいたなど)。

クイックレビュー: インサイダー取引は市場の公平性に関するルールです。株価を左右する「秘密」を知ってしまったら、それを使って取引したり、他人に教えたり、取引を促したりしてはいけません。

2. マネーロンダリング(資金洗浄)

マネーロンダリングとは、「汚れた」金(麻薬取引や盗難など、犯罪で得た金)を「クリーン」に見せる(正当なビジネスから得たように見せかける)プロセスです。

マネーロンダリングの3段階

文字通り「洗濯」の工程に例えてみましょう。
1. 配置(Placement): 銀行や企業に「汚れた」現金を投入する(洗濯物を洗濯機に入れる)。
2. 隠蔽(Layering): 複雑な取引を繰り返して資金の出所を分からなくする(洗いの工程)。
3. 統合(Integration): 「クリーン」なソースから犯罪者の手元に金が戻り、自由に使えるようになる(乾燥・たたみの工程)。

知っておくべき主な犯罪

会計士として、次の3点には細心の注意を払う必要があります。
- マネーロンダリングへの関与: 実際に犯罪収益を隠したり、移動したり、使用したりする手助けをすること。
- 報告義務違反(Failure to Disclose): 仕事中にマネーロンダリングの「疑い」があるのに、会社のマネーロンダリング報告責任者(MLRO)に報告しないこと。
- ティッピングオフ(Tipping Off): 調査対象となっていることを、その容疑者に教えてしまうこと。これは捜査を台無しにする重大な犯罪です。

例え:チームメイトの不正を目撃したのに審判に言わないのは問題ですよね。もしその不正者に「審判が見てるぞ」と教えたら、それが「ティッピングオフ」です!

重要なポイント: 資金が100%「汚れている」と確信していなくても、報告義務は発生します。「合理的な疑い」があるだけで、MLROへの報告が必要です。

3. 贈収賄(Bribery)

2010年贈収賄法(Bribery Act 2010)は、4つの主要な犯罪を規定しています。この法律は非常に厳格で、企業が英国と関連性があれば、英国外での出来事にも適用される可能性があります。

4つの犯罪

1. 他者への贈賄: 職務を「不適切」に行わせるために報酬を提供・供与すること。
2. 収賄: 職務を不適切に行う見返りとして報酬を要求・受領すること。
3. 外国公務員への贈賄: ビジネスを勝ち取るために、他国の政府関係者に贈り物を提供すること。
4. 贈収賄を防止するための商業組織の怠慢: これは「無過失責任」の犯罪です。従業員が贈賄を行った場合、企業側にそれを止めるための適切な手続きがあったことを証明できなければ、会社全体が罪に問われます。

よくある誤解: 学生の皆さんは、小さな贈り物ならすべて贈賄だと思いがちですが、実際には「接待(例:クライアントとのランチ)」は、合理的であり、相手に不正な行動を促す意図がなければ問題ないことがほとんどです。

重要なポイント: 企業は「防止措置の怠慢」という罪を避けるために、明確な贈収賄防止ポリシーを策定しておく必要があります。

4. 不正取引(Fraudulent Trading)と不当取引(Wrongful Trading)

どちらも似たような響きですが、法律上は大きく異なります。どちらも企業が財政難に陥った際に発生する問題です。

不正取引(Fraudulent Trading)

これは深刻な犯罪です。債権者を欺く意図(不当に騙す意図)を持って事業を継続した場合に発生します。
- 立証責任: 非常に高い(「不正を働く意図」があったことを証明しなければならない)。
- 罰則: 民事責任(賠償金の支払い)と刑事罰(懲役刑の可能性)の両方が科されます。
- 誰が訴えられるか: 不正に加担していることを知っていたすべての関係者。

不当取引(Wrongful Trading)

こちらは「悪意」というより、「仕事ができない」「不注意」に近い概念です。会社が倒産(支払不能)を避けられないと気づいたにもかかわらず、債権者への損失を最小限にする努力をせず、取引を続けてしまった場合に発生します。
- 立証責任: 不正取引より低い(「合理的な取締役」という基準)。通常の有能な取締役であれば、もっと早く取引を止めていたはずではないか、という視点で見られます。
- 罰則: 民事責任のみ。取締役は、債権者への返済のために会社の資産へ資金を補填する責任を負う可能性があります。
- 誰が訴えられるか: 取締役のみ(シャドウ・ディレクターを含む)。

覚え方のルール(「F」と「W」):
Fraudulent(不正) = Feelings(意図・不誠実) + Felony(重罪)。
Wrongful(不当) = Wasteful(無駄・不注意) + 民事責任。

豆知識: 「シャドウ・ディレクター(影の取締役)」とは、正式には取締役として登録されていないものの、実際には実質的な取締役に指示を出している者のことです。もし問題が起きた場合、法律は彼らを実質的な取締役と全く同じように扱います!

比較表:不正取引 vs 不当取引

不正取引(Fraudulent Trading):
- 意図: 不誠実さの立証が必要。
- 種類: 刑事罰および民事責任。
- 対象: 関与した者すべて。

不当取引(Wrongful Trading):
- 意図: 意図は不要。過失や不注意があれば成立。
- 種類: 民事責任のみ。
- 対象: 取締役のみ。

最初は難しく感じるかもしれませんが、大丈夫です!「不正には『罪の心(騙す意図)』が必要だが、不当取引は会社が救いようのない状況になった後の『判断ミス』で成立する」と覚えておきましょう。