資本市場予測へようこそ!パート2

パート1では、GDP、インフレ、中央銀行の政策といった経済の「全体像」を俯瞰しました。ここからは、より実践的な内容に移ります。本章では、マクロ的な視点からミクロ的な視点へと切り替え、個別の資産クラスの収益を具体的にどのように予測するかを学んでいきます。

債券(固定利付証券)、株式、不動産、そして為替の予測方法について掘り下げていきます。最初は数式が多くて圧倒されるかもしれませんが、大丈夫です。すべての公式をシンプルで論理的な要素に分解して解説します。それでは、始めましょう!

1. 債券の収益予測

債券の収益を予測する際、単に表面利回り(クーポンレート)だけを見ていては不十分です。価格がどのように変動するのか、そして借り手が債務不履行(デフォルト)に陥った場合にどうなるのかを考慮する必要があります。

ビルディング・ブロック方式(積み上げ法)

債券の収益をレゴブロックの塔のように考えてみましょう。「リスクフリー」の土台の上に、さまざまな「リスク」を積み上げていくことで、最終的な高さ(収益)を算出します。主な構成要素は以下の通りです。

1. 短期実質リスクフリーレート: インフレ調整後の、非常に安全な短期投資から得られる収益。
2. インフレプレミアム: 時間の経過とともに物価が上昇することへの補償。
3. 期間プレミアム(満期プレミアム): 長期間資金を拘束することに対する補償(金利リスク)。
4. クレジットプレミアム: 借り手が返済できなくなるリスクに対する補償(デフォルトリスク)。
5. 流動性プレミアム: 公正な価格で迅速に売却できないリスクに対する補償。

別の手法:DCFアプローチ

満期まで保有する単一の債券であれば、最終利回り(YTM)を起点とするのが最適です。しかし、投資期間が債券の満期よりも短い場合、収益は以下のように計算されます。
\( E(R) \approx \text{Yield} + \text{Roll-down Return} + \Delta\text{Price due to yield changes} - \text{Credit Losses} \)

ワンポイント: 「ロールダウン収益」とは、イールドカーブが右肩上がりの場合、債券の残存期間が短くなるにつれて(イールドカーブ上を滑り落ちるように移動することで)、価格が上昇する現象を指します。

重要なポイント: 債券の収益は、「インカム(利回り)」と「価格変動(金利動向や信用度の変化によるもの)」の合計で決まります。

2. 株式の収益予測

株式の収益予測は、債券のような決まった満期や固定利息がないため、債券よりも少し「芸術的(定性的)」な側面があります。

グリノルド・クローナー(Grinold-Kroner)モデル

これはCFAで非常によく使われる定番モデルです。株式収益を「キャッシュフロー」「成長性」「再評価」という3つの直感的な要素に分解します。

\( E(R_e) \approx \frac{D}{P} + (\% \Delta E - \% \Delta S) + \% \Delta (P/E) \)

シンプルに言い換えるとこうなります:

1. 配当利回り \( (\frac{D}{P}) \): 受け取れる現金(インカムゲイン)。
2. 利益成長率 - 株式発行数変化率 \( (\% \Delta E - \% \Delta S) \): これが「ファンダメンタルな成長」です。企業が利益を伸ばしても、新株を発行すれば(希薄化)、1株あたりの収益は下がります。逆に、自社株買いを行うと(\( \% \Delta S \) がマイナス)、株主の収益は向上します!
3. 再評価 \( \% \Delta (P/E) \): これは「心理的」な要因です。投資家が株を好み、利益1ドルに対して15ドルではなく20ドル払ってもいいと考え始めれば、PERが拡大し、収益が発生します。

シンガー・ターハール(Singer-Terhaar)モデル

このモデルは、市場のグローバルな統合度を考慮して資産のリスクプレミアムを計算するために使用されます。

例え話: 「地元の青空市場」と「巨大なグローバルスーパー」を想像してみてください。完全に統合された「グローバルスーパー」では、価格は世界共通のリスクに基づいて決まります。一方、「セグメント化された(分離された)」ローカル市場では、価格は現地の要因のみに基づいて決まります。

このモデルは「完全に統合された市場」としての収益と「完全に分離された市場」としての収益を計算し、その国の市場がどれだけ世界に開かれているかに基づいて、2つの加重平均を算出します。

重要なポイント: 株式の収益は、企業からの配当、利益の成長、そして市場の期待値(PERの拡大)から生まれます。

3. 不動産の収益予測

不動産は、債券(クーポンに近い「賃料」を払う)と株式(価値が上昇する可能性がある)の中間のような存在です。

不動産の長期的な収益は、以下のように単純化できます。
\( E(R) = \text{Cap Rate} + \text{Growth Rate} \)

豆知識: 「キャップレート(還元利回り)」は、純営業利益(NOI)を不動産価値で割ったものです。これは不動産版の配当利回りと言えるでしょう。

不動産の収益に影響を与える主な要因:
- GDP成長率: 経済が活発になれば、オフィススペースへの需要が高まります。
- 金利: 金利が上がると、建物の調達コスト(融資コスト)が高くなります。
- リスクプレミアム: 不動産は流動性が低いため(超高層ビルを5分で売却することはできません!)、投資家は上乗せの収益を要求します。

クイックレビュー: 長期的には、不動産の収益は債券と株式の収益の間に位置づけられるべきものです。

4. 為替レートの予測

通貨は相対的なものであるため、予測が非常に難しい性質があります。「ドル高」と言うときは、必ず「何に対して(ユーロに対してなど)」という対象が存在します。

重要な概念:

1. 購買力平価(PPP): 長期的には、同じモノはどの国でも同じ価格になるように為替レートが調整されるという理論。例えば、英国のインフレ率が高ければ、英国の製品が世界で高くなりすぎないよう、ポンドの価値が下がるべきだという考え方です。
2. 相対的な経済力: 資金は、成長率が高く金利が高い国に流れます(投資家は、より高いリターンが得られる場所に資金を置きたがるため)。
3. 経常収支: その国が「純輸出国家(輸入より輸出が多い)」であれば、自国通貨への需要が高まり、通貨価値を押し上げる傾向があります。

避けるべきよくある間違い: 「名目」金利と「実質」金利を混同しないでください。高インフレによる高い名目金利は、通常、通貨の減価(弱含み)につながります。決して強化の材料ではありません。

重要なポイント: 通貨の動きは、2国間のインフレ率、金利差、貿易収支のバランスによって決まります。

まとめと最後のヒント

かなりの量をこなしましたね!試験対策用の要約をチェックシートとして使ってください。

債券: 利回り + ロールダウン + クレジット/流動性プレミアムに注目。
株式: グリノルド・クローナー(配当+成長+再評価)とシンガー・ターハール(統合対分離)を活用。
不動産: キャップレート + 成長率。
為替: インフレ(PPP)と貿易収支の動向に注視。

最初から難しく感じても大丈夫です! 一度構成要素を特定してしまえば、数学的には単純な足し算と引き算に過ぎません。まずは公式を1つずつ練習してみてください。すぐにプロのように資産収益を予測できるようになりますよ!