E3:戦略的管理へようこそ!

こんにちは!「戦略プロセス」の第一部へようこそ。もしあなたが「戦略」という言葉に、上司が偉そうに使う難解な専門用語というイメージを持っているなら、安心してください。読み終える頃には、戦略とは「ビジネスを長期的に成功させるための選択」に過ぎないことが分かるはずです。試験の初回合格を目指す方も、復習が必要な方も、このノートでしっかりと概念を定着させましょう!

この章では、戦略の種類について見ていきます。戦略が組織のどのレベルで行われ、マネージャーが実際にどのように戦略を「実行」するのかを探ります。


1. 戦略の3つのレベル

戦略は経営トップだけで行われるものではありません。組織内には3つの異なるレベルが存在します。プロのスポーツチームを思い浮かべてみてください。オーナーにはオーナーの、監督には監督の、選手には選手としての役割があるのと同じです。

レベル1:全社戦略 (Corporate Strategy)

これは「全体像」を見るレベルです。組織の全体的な事業領域(スコープ)に関わります。 ここで問われるのは:「どの事業を行うべきか?」「どの市場に参入し、どの市場から撤退するか?」「グループ各社にどのような付加価値を提供するか?」といった問いです。

例:ディズニーのような巨大企業が独自のストリーミングサービス(Disney+)を立ち上げることを決めるのは、全社戦略です。彼らは「王国」全体の方向性を決定しているのです。

レベル2:事業戦略 (Business Strategy / SBUレベル)

このレベルは、特定の市場でどのように競争するかに関わります。大企業は多くの場合、戦略的事業単位(SBU)に分けられます。各SBUは独自の製品と競合に集中します。

例:ディズニーの中の「テーマパーク」部門にはユニバーサル・スタジオと競うための戦略があり、「スタジオ・エンターテインメント」部門にはNetflixやワーナー・ブラザースと競うための戦略があります。

レベル3:機能別戦略 (Functional / Operational Strategy)

ここでは「実行」が行われます。特定の部門(財務、マーケティング、人事、ITなど)が、事業戦略や全社戦略をどのように実現するかに焦点を当てます。

例:ディズニー+のマーケティング部門がHuluとの「バンドル(セット)販売」を決定するのは、ビジネスの成長目標を支えるための機能別戦略です。

クイック復習:

  • 全社:どこで戦うか?(パイ全体)
  • 事業:どうやって勝つか?(パイの切り分け)
  • 機能別:どうやって実行するか?(材料)


2. 合理的モデル vs. 創発的戦略

戦略は実際にはどのように作られるのでしょうか?ここには2つの主要な学説があります。専門用語に怖がる必要はありません。内容はとても論理的です!

合理的な(計画的)モデル (Rational Model)

これはトップダウンの形式的なアプローチです。マネージャーは「分析 → 戦略的選択 → 実行」という手順を踏みます。世界は予測可能であり、綿密に計画すれば成功するという前提に基づいています。

例え:GPSを使って目的地までドライブすること。明確な目的地と決まったルートがあり、計画通りに指示に従います。

創発的戦略 (Emergent Strategy)

ヘンリー・ミンツバーグが提唱したこの視点は、世の中は複雑すぎて完璧な計画など立てられないと主張します。代わりに、何がうまくいき、何がうまくいかないかを学びながら、時間の経過とともに戦略が「浮かび上がって(創発して)」きます。柔軟で即応性に優れています。

例え:地図を持たずに新しい街を散策すること。最初は美術館を目指して歩いていても、途中で面白いローカル市場を見つけて、そこで午後を過ごすことに決めるかもしれません。あなたの「戦略」は、発見したものに基づいて変化したのです!

豆知識:有名な製品の多くは創発的戦略から生まれました。例えば、ポスト・イットは、もともと強力な接着剤を作ろうとして失敗した結果生まれたものです。「弱い接着剤」が栞(しおり)に非常に便利だと気づいたとき、戦略が書き換わったのです!


3. ミンツバーグの戦略の5P

ヘンリー・ミンツバーグは、「戦略」をたった一つの定義で表すことはできないと指摘しました。彼は5Pとして知られる5つの異なる視点を提示しました:

1. Plan(計画):意識的に意図された行動指針(例:「来年中に売上を10%伸ばす」)。
2. Ploy(策略):競合を出し抜くための特定の策略(例:隣の店から客を奪うために、スーパーがあえてパンを値下げする)。
3. Pattern(パターン):時間の経過に伴う一貫した行動。常に高級路線に特化していれば、正式な計画書になくても、その「パターン」こそが戦略となります。
4. Position(ポジション):組織が環境の中でどう位置するか(例:「低コストリーダー」や「ニッチな高級品プロバイダー」)。
5. Perspective(パースペクティブ):組織の「個性」ややり方(例:Appleの「Think Different」やデザイン主導のイノベーション)。

記憶のコツ:5Pを5種類のメガネだと思ってください。どのメガネをかけるかによって、「戦略」の意味の見え方が変わります!


4. 戦略の流れ(意図的 vs. 創発的)

「計画」がどのように「現実」に変わるかを理解することは重要です。ミンツバーグはこの流れの中でいくつかの戦略タイプを特定しました:

  • 意図的戦略 (Intended Strategy):最初に立てた計画。
  • 計画的戦略 (Deliberate Strategy):意図的戦略のうち、実際に成功した部分。
  • 未実現戦略 (Unrealized Strategy):市場の変化などで失敗したり、破棄されたりした計画。
  • 創発的戦略 (Emergent Strategy):計画外だったが、結果的にうまくいき戦略の一部となったもの。
  • 実現戦略 (Realized Strategy):会社が最終的に実際に行ったこと(計画的戦略と創発的戦略のミックス)。

よくある間違い:学生は「未実現戦略」を悪いことだと考えがちです。しかし、そうとは限りません!頑固に計画に従って倒産するよりも、うまくいかない計画を捨てる方が賢明な場合が多いからです。

まとめの式:
意図的計画 - 未実現部分 + 創発的行動 = 実現戦略


5. 戦略的ドリフト (Strategic Drift)

これはE3において非常に重要な概念です。戦略的ドリフトとは、組織の戦略が環境の現実と徐々にズレていく現象です。会社はこれまで通りのことを続けていますが、世界の方が変化してしまっている状態です。

戦略的ドリフトの4つの段階:

1. 漸進的変化 (Incremental Change):会社は小さく、妥当な調整を行う。
2. 戦略的ドリフト (Strategic Drift):環境の変化が会社の変化よりも速い。「ギャップ」が開き始める。
3. 流動期 (Flux):経営陣が何かがおかしいと気づく。議論が紛糾し、様々な戦略が試されるが、明確な方向性がない。
4. 変革または死 (Transformational Change or Death):追いつくために劇的で大規模な変革を行うか、そうでなければ倒産する(コダックやブロックバスターのように)。

重要なポイント:ドリフトを避けるためには、マネージャーは常に環境をスキャンし、自身の「パースペクティブ(5Pの一つ)」を問い直す姿勢が必要です。


章のまとめ

1. 戦略には3つのレベルがある:全社(グループ全体)、事業(SBU/競合対応)、機能別(各部門)。
2. 戦略は常に正式な計画とは限らない:合理的(計画的)なプロセスもあれば、創発的(学習的)なプロセスもある。
3. ミンツバーグの5P:戦略は「計画、策略、パターン、ポジション、パースペクティブ」という5つの視点で見ることができる。
4. 実現戦略:最初から意図した通りになることは稀。計画と創発的な対応のブレンドである。
5. 戦略的ドリフトに注意:世界の変化と同じ速さで変わらなければ、いずれ「流動期」に陥り、失敗する。

今はまだこれらの用語が少し抽象的に感じられても大丈夫です!「戦略プロセス」のセクションを進めるにつれて、マネージャーが分析ツールを使ってどのようにこれらの選択を行っているかが明確に見えてくるはずです。順調ですよ!