ターゲット・コスティング(目標原価計算)へようこそ!
ターゲット・コスティング(目標原価計算)の章へようこそ!「価値創造のためのコスト管理」を学ぶ上で、非常に重要なトピックです。従来のビジネスでは、製品を作り、そこに利益を上乗せして、「お客様がその価格を払ってくれること」を願うのが一般的でした。しかし、現代のような競争の激しい世界では、価格は市場によって決められます。ターゲット・コスティングは、この伝統的なアプローチを根本から覆す手法です。「これを作るのにいくらかかるか?」と考えるのではなく、「これを作るためにいくらまでならかけられるか?」と問いかけるのです。
最初は少し逆転した考え方に戸惑うかもしれませんが、心配しないでください。このノートを読み終える頃には、なぜこれが価値を創造するための強力なツールなのかが理解できるはずです。
1. ターゲット・コスティングとは?
ターゲット・コスティングは、製品ライフサイクルの設計および開発段階で使用される、能動的なコスト管理ツールです。製品が最初から確実に利益を生み出せるように設計することを目的としています。
P2のシラバスにおいて最も重要なのは、ターゲット・コスティングが市場主導型(マーケット・ドリブン)であるという点です。まず顧客がいくら払う意思があるかを確認し、そこから逆算して考えます。
伝統的な原価計算 vs. ターゲット・コスティング
伝統的なアプローチ(コストプラス法):
見積原価 + 利益マージン = 販売価格
問題点: もし市場がその価格を「高すぎる」と判断すれば、製品は全く売れません!
ターゲット・コスティングのアプローチ:
ターゲット販売価格 - ターゲット利益マージン = ターゲット・コスト(目標原価)
例え: スマートフォンを作ると想像してみてください。
伝統的な手法: 500ドルの製造コストをかけて100ドルの利益を乗せ、600ドルで売ろうとします。しかし、顧客が450ドルしか払いたくない場合、困ったことになります。
ターゲット・コスティング: 顧客が450ドルまでなら払うことを見極めます。そこに50ドルの利益が必要だとすれば、何としてでも400ドルで製造する方法を見つけなければなりません。その400ドルという目標を達成するために、スマートフォンを設計するのです。
クイックレビュー: ターゲット・コスティングは生産開始前に行われます。工場がすでに稼働し始めてからコストを「削減」しようとするよりも、設計段階でコストを「設計から排除」する方がはるかに簡単なのです!
2. ターゲット・コスティングのプロセス
製品の「予想原価」と「あるべき原価(ターゲット・コスト)」のギャップを埋めることこそが、この章の核心です。手順は以下の通りです。
ステップ1:ターゲット販売価格の決定
市場調査、競合価格、顧客が製品の機能に対して感じる価値に基づいて決定します。
ステップ2:ターゲット利益マージンの決定
通常、会社の売上高利益率や具体的な財務目標に基づき、経営陣によって設定されます。
ステップ3:ターゲット・コストの計算
以下の公式を使用します:\( Target Cost = Target Selling Price - Target Profit \)
ステップ4:現在の予想原価の見積もり
現在の設計やプロセスに基づくと、今日この製品を作るのにいくらかかるかを算出します。
ステップ5:コストギャップの特定
コストギャップとは、私たちが「あるべき」と考えるコスト(ターゲット・コスト)と、「かかるだろう」と考えるコスト(見積原価)の差額のことです。
\( Cost Gap = Estimated Cost - Target Cost \)
ステップ6:ギャップの解消
ここからが腕の見せ所です。顧客が期待する品質を犠牲にすることなく、見積原価がターゲット・コストに達するまで、コスト削減の方法を追求しなければなりません。
重要なポイント: 目標は、生産が始まる前にコストギャップを完全に解消することです。
3. コストギャップを解消する方法
ギャップを埋めることは、単に安い素材を使うことではありません。賢く立ち回ることが重要です。P2カリキュラムで紹介されている主な手法は以下の通りです:
バリュー・エンジニアリング(VE): 設計段階で製品を見直し、顧客への価値を損なうことなく部品を簡素化、標準化、または排除できないかを検討します。
例: 5種類の製品で同じ種類のネジを使用し、まとめ買いによる割引を狙う。
バリュー・アナリシス(VA): VEと似ていますが、多くの場合、既存の製品に適用されます。「この機能は、そのコストを正当化するほどの価値を提供しているか?」と問いかけます。
機能別コスト分析: 部品ではなく、顧客が求める機能(例:「電話はクリアな写真が撮れなければならない」)に着目します。その機能に対してコストを割り当て、予算の40%を使っているのに顧客が10%の価値しか感じていない機能があれば、そこがコスト削減の対象となります!
その他、ギャップ解消のための方法:
• 部品点数の削減
• 特注部品ではなく標準部品の使用
• サプライヤーとの有利な価格交渉
• 生産効率の向上(リーン生産方式)
• 無駄を省くための従業員教育
豆知識: 製品コストの大部分(多くの場合最大80%)は、設計段階で「固定」されてしまいます。だからこそ、ターゲット・コスティングは設計に重点を置くのです。
4. サービス業におけるターゲット・コスティング
ターゲット・コスティングは「物」を作るだけでなく、サービス業(航空会社やコンサルティングなど)にも応用できます。ただし、サービスには特有の課題があります:
• 無形性: サービスの「部品」を定義するのが難しい。
• 消滅性: サービスは在庫として保管できない(例:飛行機の空席)。
• 同時性(不可分性): サービスの提供と消費が同時に行われる。
• 変動性: 顧客体験は一人ひとり異なる可能性がある。
サービス業でターゲット・コスティングを活用するには、プロセスと所要時間に注目しましょう。例えば植毛手術のターゲット・コストが3,000ドルなら、外科医の時間、診療所のスペース、使用する材料費を分析し、その枠内に収まるように管理する必要があります。
5. メリットと課題
メリット:
• 会社全体が顧客重視になることを強制する。
• 異なる部門(設計、エンジニアリング、マーケティング、財務)が早期から協力し合うことを促進する。
• 誰も買えないような製品を発売してしまうリスクを軽減する。
課題:
• 初期段階で非常に多くの時間がかかる。
• 部門間の優れたコミュニケーションが不可欠。
• 厳しいコスト目標を達成するためにスタッフへ過度なプレッシャーがかかり、ストレスや「手抜き」につながる可能性がある。
6. よくある失敗(学生へのアドバイス)
ミス1:原価から利益を引いてしまうこと。 公式を忘れないで!販売価格から利益を引くことで、ターゲット・コストが算出されます。
ミス2:品質を忘れること。 「安かろう悪かろう」の製品でコストギャップを埋めても、顧客は結局その目標価格を払ってくれません。必ず価値(バリュー)を維持しなければなりません。
ミス3:新製品にしか使えないと思い込むこと。 新規設計に最適ですが、既存製品の再設計にも応用可能です。
記憶のコツ:「T-P-S」ルール
公式を覚えるには、Total Price System(トータル・プライス・システム)をイメージしましょう。
Target Price(目標価格) - Profit(利益) = Spending limit(支出上限、つまりターゲット・コスト)。
まとめ: ターゲット・コスティングとは、市場価格から目標利益を差し引くことで、製品の許容コストを決定する市場主導型のアプローチです。設計段階でバリュー・エンジニアリングや機能分析を用いてコストギャップを排除することに注力します。