多変量確率変数へようこそ!
前の章では、単一の確率変数(例えば、ある一つの株式の収益率など)について見てきました。しかし、現実の金融の世界では、資産は孤立して存在しているわけではありません!お互いに影響し合っています。もしテクノロジーセクターが暴落すれば、AppleもMicrosoftも同様に下落する可能性が高いですよね。多変量確率変数(Multivariate Random Variables)とは、2つ以上の変数がどのように連動して振る舞うかを研究するものです。これを理解することは、分散投資ポートフォリオを構築し、リスクを管理するための「秘伝のソース」となります。
最初は少し抽象的に感じるかもしれませんが、大丈夫です。シンプルな例えやステップごとの解説で、直感的に理解できるようにサポートします!
1. 同時確率分布(Joint Probability Distributions)
2つの変数(それぞれ \( X \) と \( Y \) とします)を同時に考えるとき、同時確率分布を用います。これは、\( X \) がある値を取り、かつ \( Y \) がある値を取る確率を示すものです。
離散的同時分布
これはシンプルな表だと考えてください。例えば、\( X \) を金利の変化(上昇・下落)、\( Y \) を株価の変化(上昇・下落)とします。「金利上昇」と「株価下落」が交差するセルにある数値が、その「同時確率」となります。
黄金ルール:同時確率分布表内のすべての確率を合計すると、必ず 1.0 になる必要があります。
連続的同時分布
連続的な変数の場合は、同時確率密度関数(PDF)を用い、\( f(x, y) \) と表記します。平らな表ではなく、3次元の山を想像してみてください。この山の下にある合計の「体積」は必ず1になります。ある範囲の確率を求めるには、厳密には微積分(二重積分)を使いますが、FRM試験においては「合計の面積や体積は常に100%(1.0)である」という概念的な理解に重点を置きましょう。
クイック復習:同時確率は「AND」の確率、つまり2つの事象が同時に起こる確率のことです。
2. 周辺分布と条件付き分布
全体像(同時分布)が見えている場合でも、特定の変数にだけ注目したいことがあります。
周辺確率(Marginal Probability)
周辺確率は、他の変数がどうなろうと関係なく、ある一つの変数が起こる確率のことです。
簡単なコツ:確率表を思い浮かべてください。ある行やある列の値をすべて足し合わせ、その合計を紙の「余白(マージン)」に書き込めば、それが周辺確率です!
\( P(X = x) = \sum P(X=x, Y=y) \) (すべての可能な \( y \) について)
条件付き確率(Conditional Probability)
これは、\( Y \) が起こったということが分かっている状態での、\( X \) が起こる確率です。これを \( P(X|Y) \) と書きます。
公式: \( P(X|Y) = \frac{P(X, Y)}{P(Y)} \)
例え: ある部屋にいる人々を想像してください。外が雪である(\( Y \))という条件のもとで、誰かがコートを着ている(\( X \))確率です。雪が降っているという知識があるだけで「母集団」が変わり、コートを着ている可能性は非常に高まりますよね。
重要なポイント:周辺分布=ある一つの変数の合計。条件付き確率=新しい情報によって更新された確率。
3. 確率変数の独立性
2つの変数が独立(Independent)であるとは、一方の発生が他方の発生について何も情報を与えないことを意味します。
数学的には、\( X \) と \( Y \) が独立であるための条件は以下の通りです:
1. \( P(X, Y) = P(X) \times P(Y) \)
2. \( P(X|Y) = P(X) \)
よくある間違い:学習者は「排反事象(Mutually Exclusive)」と「独立」を混同しがちです。2つの事象が排反である場合(コインの表と裏のようなもの)、それらは独立ではありません。むしろ、一方が起こればもう一方は絶対に起こらないため、極めて「従属的」なのです!
4. 共分散と相関
これはFRMのコアトピックです。変数がどのように連動して動くかを測る必要があります。
共分散(Covariance)
共分散は、2つの変数の間の直線的な関係の「方向」を測る指標です。
- 正の共分散:同じ方向に動く。
- 負の共分散:逆方向に動く。
- 共分散がゼロ:直線的な関係がない。
共分散の公式は:
\( Cov(X, Y) = E[(X - \mu_X)(Y - \mu_Y)] \)
または、計算しやすいこちらの形式も一般的です:
\( Cov(X, Y) = E(XY) - E(X)E(Y) \)
相関係数(Correlation, \( \rho \))
共分散は単位(ドルやパーセントなど)に依存するため解釈が難しいです。相関係数はこれを -1 から +1 の間の数値に標準化します。
公式: \( \rho_{XY} = \frac{Cov(X, Y)}{\sigma_X \sigma_Y} \)
豆知識:相関係数が+1なら、2つの変数は完全に連動しています。-1なら完全に逆方向に動きます。0なら「直線的な」関係はありません。
重要なポイント:相関係数は「スケーリングされた共分散」です。これにより、異なる資産ペア間の関係性を比較しやすくなります。
5. 結合変数の期待値と分散
金融ではポートフォリオ(変数の合計)を作成することがよくあります。これらの組み合わせにおける期待収益率とリスクの計算方法を知っておく必要があります。
合計の期待値
これは簡単です!合計の期待値は、期待値の合計と一致します:
\( E(aX + bY) = aE(X) + bE(Y) \)
合計の分散(「リスク」の公式)
これは試験において非常に重要です。2つの変数を組み合わせるとき、分散は単なる分散の合計にはなりません。共分散を考慮する必要があります!
\( Var(aX + bY) = a^2 Var(X) + b^2 Var(Y) + 2ab Cov(X, Y) \)
\( Cov(X, Y) = \rho_{XY} \sigma_X \sigma_Y \) なので、以下のように書くこともできます:
\( Var(aX + bY) = a^2 \sigma_X^2 + b^2 \sigma_Y^2 + 2ab \rho_{XY} \sigma_X \sigma_Y \)
暗記のコツ:代数学の展開式 \( (a+b)^2 = a^2 + b^2 + 2ab \) を思い出してください。分散の公式も同じパターンに従います。ただ、\( 2ab \) の部分に「共分散」の項がくっついているだけです!
6. 二変量正規分布(Bivariate Normal Distribution)
二変量正規分布は、両方の変数が正規分布に従う場合の分布です。この関係を完全に記述するには、以下の5つのパラメータだけで十分です:
1. Xの平均(\( \mu_X \))
2. Yの平均(\( \mu_Y \))
3. Xの分散(\( \sigma_X^2 \))
4. Yの分散(\( \sigma_Y^2 \))
5. 2変数間の相関係数(\( \rho \))
覚えておくべき重要な性質:
ほとんどの分布において、「相関係数がゼロ」だからといって、必ずしも変数が「独立」であるとは限りません。しかし、正規分布においては、相関係数がゼロであれば変数は独立となります。これは試験でよく出る「ひっかけ問題」です!
クイックまとめ:多変量変数は、資産の「連動性」を理解する助けとなります。同時確率、周辺確率、条件付き確率をマスターし、合計の分散の公式を習得すれば、ポートフォリオ理論の習得まであと少しです!