設備投資評価(Capital Investment Appraisal)の世界へようこそ!
この章では、資本予算編成(Capital Budgeting)の世界を深く掘り下げていきます。あなたが香港の大企業の財務マネージャーになったところを想像してみてください。目の前には、コーズウェイベイ(銅鑼湾)に新しい小売店舗をオープンする、あるいは粉嶺(ファンリン)の製造工場をアップグレードするなど、いくつかの選択肢があります。しかし、すべてのプロジェクトを実行できるわけではありません。どのプロジェクトが「勝者」であるかを判断する方法が必要になります。
まずは、最も基本的で不可欠な2つの手法、回収期間法(Payback Period)と会計的利益率法(ARR:Accounting Rate of Return)から始めましょう。これらは非常にシンプルで、プロジェクトの妥当性を素早くチェックできるため、マネージャーが最初に手にするツールとしてよく使われます。
1. 回収期間法 (PBP)
回収期間法は、文字通り「投資したお金を回収するのにどれくらいの時間がかかるか?」を測るものです。プロジェクトから得られるキャッシュインフローが、最初の投資額と等しくなるまでに必要な期間を測定します。
回収期間の計算方法
毎年のキャッシュフローが一定か、それとも変動するかによって、2つの計算方法があります。
A. 年間キャッシュフローが一定の場合
プロジェクトが毎年まったく同じ額のキャッシュを生み出す場合は、次のシンプルな公式を使います。
\( \text{Payback Period} = \frac{\text{Initial Investment}}{\text{Annual Cash Inflow}} \)
例: \( \$1,000,000 \) を投資し、毎年 \( \$250,000 \) を生み出す場合:
\( \text{Payback} = \frac{\$1,000,000}{\$250,000} = 4 \text{ years} \text{(4年)} \)
B. キャッシュフローが一定でない場合(累計法)
現実の世界では、キャッシュフローは通常変動します。回収期間を求めるには、累計額がゼロになるまで「累計キャッシュフロー」を計算し続けます。
ステップ・バイ・ステップの手順:
1. 各年のキャッシュフローをリストアップする。
2. 「累計キャッシュフロー」の列を作成する。
3. 累計額がマイナスからプラスに転じる年を特定する。
4. 転換する年の端数を計算するために、以下の公式を使います。
\( \text{Payback} = \text{Years before full recovery} + \left( \frac{\text{Unrecovered cost at start of year}}{\text{Cash flow during the year}} \right) \)
例: 投資額が \( \$100 \)
1年目のキャッシュフロー:\( \$40 \)(累計:\( -\$60 \))
2年目のキャッシュフロー:\( \$40 \)(累計:\( -\$20 \))
3年目のキャッシュフロー:\( \$40 \)(累計:\( +\$20 \))
回収は3年目の途中で起こります。
\( \text{Payback} = 2 \text{ years} + \left( \frac{\$20}{\$40} \right) = 2.5 \text{ years} \text{(2.5年)} \)
意思決定の基準
企業は通常、目標回収期間を設定しています(例:「3年以内にお金を回収しなければならない」など)。
- 回収期間 \( \leq \) 目標期間の場合:採択(Accept)
- 回収期間 \( > \) 目標期間の場合:却下(Reject)
クイック・レビュー: 回収期間法は流動性とリスクに焦点を当てています。お金を早く回収できればできるほど、その資金がプロジェクトで「リスクにさらされる」時間は短くなります!
2. 会計的利益率法 (ARR)
回収期間法が「時間」に注目するのに対し、会計的利益率法(ARR)は「収益性」に注目します。これは、キャッシュフローではなく会計上の利益(Accounting Profit)を用いる唯一の評価手法です。
ARRの公式
HKICPAのシラバスでは、通常「平均投資額(Average Investment)」法が使われます。
\( \text{ARR} = \frac{\text{Average Annual Accounting Profit}}{\text{Average Investment}} \times 100\% \)
各要素の求め方:
1. 平均年間利益: プロジェクト期間中の総利益を耐用年数で割ったもの。
ポイント: \( \text{Profit} = \text{Cash Flow} - \text{Depreciation} \text{(利益 = キャッシュフロー - 減価償却費)} \)
2. 平均投資額:
\( \text{Average Investment} = \frac{\text{Initial Investment} + \text{Residual Value}}{2} \)
意思決定の基準
経営陣は最低必要利益率(ハードル・レート)を設定します(例:15%)。
- ARR \( \geq \) ハードル・レートの場合:採択(Accept)
- ARR \( < \) ハードル・レートの場合:却下(Reject)
豆知識: ARRが人気なのは、企業の年次報告書で使われるパフォーマンス評価(利益や投下資本利益率(ROCE)など)と整合性が取れているからです。しかし、減価償却の方法など、採用する会計方針によって数値が「操作」される可能性がある点には注意が必要です。
3. 2つの手法の比較
QP試験の受験生として、これらの手法を比較できることが重要です。それぞれの長所と短所をまとめました。
回収期間法 (Payback Period)
長所:
- 計算が簡単で理解しやすい。
- 流動性の問題を抱える企業には最適(現金の回収を優先するため)。
- 技術変化が激しい業界(プロジェクトがすぐに陳腐化する業界)で有用。
短所:
- お金の時間的価値を無視している: 1年目に受け取る1ドルと、5年目に受け取る1ドルを同じ価値として扱います。
- 回収後のキャッシュフローを無視している: たとえ10年目に数百万ドルを稼ぐプロジェクトであっても、回収期間法では考慮されません。
- 「目標回収期間」の設定が、しばしば恣意的(経営陣の勘に頼りがち)である。
会計的利益率法 (ARR)
長所:
- 回収期間法とは異なり、プロジェクトの全期間を考慮する。
- マネージャーがパフォーマンス評価で使い慣れている会計用語(利益)を使用する。
短所:
- お金の時間的価値を無視している: 回収期間法と同様、将来の利益を割り引きません。
- 利益は現金ではない: 「会計上の利益」で配当を支払ったり、設備を購入したりすることはできません。必要なのはキャッシュです!
- 会計方針(減価償却の計算方法など)の選択に影響を受ける。
4. よくある落とし穴を避けよう(試験対策のヒント!)
計算が少し機械的に感じられても心配いりません。コツは細部にあります。客観式試験問題(OTQ)でよく出る「罠」に気をつけましょう。
1. キャッシュフロー vs 利益: 問題文で与えられているのが「キャッシュフロー(Cash Flow)」か「会計上の利益(Accounting Profit)」かを必ず確認してください。
- 回収期間法を計算する場合:キャッシュフローを使います。(利益が与えられている場合は、減価償却費を足し戻します)。
- ARRを計算する場合:利益を使います。(キャッシュフローが与えられている場合は、減価償却費を差し引きます)。
2. 減価償却費の計算: 与えられていない場合は、次のように計算します:
\( \text{Annual Depreciation} = \frac{\text{Initial Investment} - \text{Residual Value}}{\text{Useful Life}} \)
3. 「0年目」の投資: 回収期間法では、初期投資は通常「0年目」に発生します。ARRの「平均利益」を数える際にこれを含めないでください。0年目は現金の支出のための年であり、営業活動を行う年ではないからです。
重要なまとめ: 回収期間法とARRは「非割引(non-discounted)」の手法です。手早く判断するには適していますが、お金の時間的価値やタイミングを無視しているため、理論的には正味現在価値法(NPV)よりも劣ります。次の章では、そのNPVとIRRについて学習していきましょう!