二項ツリーの世界へようこそ!
こんにちは!Exam FAM(保険数理の基礎)の準備をしていると、オプションの評価というのはまるで未来を予知するようなものだと感じるかもしれません。残念ながら水晶玉は持っていませんが、それ以上に役立つツールがあります。それが二項オプション価格モデルです。この章では、実際よりも少しシンプルな世界を想定することで、オプションの価格を算出する方法を学んでいきます。無限の可能性を考える代わりに、株価は「上昇(Up)」か「下落(Down)」の2方向にしか動かないと仮定します。最初は少し抽象的に感じるかもしれませんが、パターンが見えてくれば地図をたどるのと同じくらい簡単ですよ!
1. 基本的な考え方:一歩ずつ進む
二項モデルは「離散時間」モデルです。つまり、オプションの期間を特定の時間の塊(ステップ)として捉えます。最もシンプルな「1期間モデル」では、今日の価格と満期時の価格だけを見ます。
株価 \(S\) を想像してみてください。1期間経過後には、以下の2つしか起こりません。
1. 株価が上昇して \(S_u\) になる(ここで \(S_u = S \times u\))
2. 株価が下落して \(S_d\) になる(ここで \(S_d = S \times d\))
知っておくべき重要用語:
• \(u\): 上昇率(通常は1より大きい)
• \(d\): 下落率(通常は1より小さい)
• \(r\): 連続複利の無リスク利子率
• \(\delta\): 連続複利の配当利回り(ある場合)
• \(h\): ステップの時間間隔(例:1年を2ステップに分けるなら \(h = 0.5\))
豆知識:このモデルが理にかなっており、「タダで儲かる(裁定取引)」機会を排除するためには、無リスク資産の成長率が、下落率と上昇率の間に収まっている必要があります。数式で表すと \(d < e^{(r-\delta)h} < u\) です。
設定のまとめ
二項モデルは、株価の動きを「道の分岐点」として単純化します。株価がどこに到達し得るかがわかれば、逆算することでオプションの今日の適正価格を導き出せるのです。
2. 方法1:複製ポートフォリオ(\(\Delta\) と \(B\))
ここは多くの学生が苦戦する部分ですが、秘訣を教えます。「将来のペイオフ(受け取り額)が全く同じなら、今日の価格も同じでなければならない」という考え方です。
ここでは、株式をいくつか購入し(これを \(\Delta\) と呼びます)、現金を借りるか貸すか(これを \(B\) と呼びます)することで、「偽のオプション」を作り出します。株価が上昇しても下落しても、このポートフォリオ(\(\Delta S + B\))の価値がオプションの価格と一致するようにしたいのです。
計算式:
株式数(\(\Delta\))を求める式:
\(\Delta = e^{-\delta h} \frac{C_u - C_d}{S_u - S_d}\)
債券への投資額(\(B\))を求める式:
\(B = e^{-rh} \frac{u C_d - d C_u}{u - d}\)
オプション価格: \(C = \Delta S + B\)
例え: \(\Delta\) を「ショックアブソーバー(緩衝装置)」と考えてみてください。これは、株価が変化したときにオプション価格がどれだけ連動するかを示します。株価が1ドル上がってオプションが0.5ドル上がるなら、あなたの \(\Delta\) は0.5です。
3. 方法2:リスク中立価格評価(「期待値」を使う方法)
多くの学生がこちらの方法を好みます。なぜなら、標準的な確率計算に似ているからです。投資家がリスクを気にしないという「リスク中立」の世界を仮定します。この世界では、株の期待収益率は単なる無リスク利子率と同じになります。
ステップ1:リスク中立確率(\(p^*\))を計算する
これは株価が上昇する実際の確率ではなく、あくまで数学的なツールです。
\(p^* = \frac{e^{(r-\delta)h} - d}{u - d}\)
ステップ2:オプション価値を計算する
次に、期待されるペイオフの「平均」を求め、それを現在価値に割り引きます:
\(C = e^{-rh} [p^* C_u + (1 - p^*) C_d]\)
クイック復習:
• \(C_u\) は株価が上昇した時のペイオフ(コールオプションなら \(Max(0, S_u - K)\))。
• \(C_d\) は株価が下落した時のペイオフ。
• 割引率 \(e^{-rh}\) を忘れないでください!これを忘れるのは本当によくあるミスですよ。
4. 多期間ツリー:先を見越して考える
オプション期間が2ヶ月で、1ヶ月ずつ2ステップに分ける場合はどうでしょうか?ツリーを延長するだけです!2期間のツリーはWebのような形になります。株価は「上昇→上昇」「上昇→下落」「下落→上昇」「下落→下落」のいずれかに動きます。
重要なポイント:FAMで使われる標準的なモデルでは、「上昇→下落」のルートと「下落→上昇」のルートで、最終的な株価が同じになります。これを組換えツリー(Recombining Tree)と呼びます。計算すべきノードが減るので、私たちの生活は楽になりますね!
逆算のプロセス:
1. 一番最後(最終ノード)から始めて、オプションのペイオフを計算します。
2. 一つ前に戻り、リスク中立公式を使って中間ノードの価値を求めます。
3. 「時刻0」(今日)に到達するまで、この作業を繰り返します。
ここがポイント
ツリーが何ステップあっても、手順は同じです。終点の値を計算し、\(p^*\) を使ってその値を開始地点まで「引き戻して」ください。
5. 米国型オプション vs 欧州型オプション
これまでに説明したことはすべて、満期時にしか行使できない欧州型オプションに完璧に当てはまります。しかし、米国型オプションはいつでも行使可能です。
米国型オプションのツリーを逆算する際は、すべてのノードにおいて自分自身に問いかける必要があります。
「今すぐ行使するのが得か、それとも持ち続けるのが得か?」
判断ルール:
そのノードでの価値 = \(Max(\text{行使価値}, \text{保有継続価値})\)
「保有継続価値」は、前のセクションで計算した、\(p^*\) を使った期待値の割引価格のことです。
よくある落とし穴:米国型プットオプションの早期行使をチェックし忘れる学生が非常に多いです。米国型コールは(配当がなければ)早期行使するメリットがほぼありませんが、米国型プットは株価が大きく下がれば早期行使されることがよくあります!
6. まとめと成功のためのヒント
\(p^*\) を覚えるためのコツ:
「(前方成長率 - 下落率)÷(上昇率 - 下落率)」と覚えましょう。分子は前方価格の成長分 \(e^{(r-\delta)h}\) から下落率 \(d\) を引いたもの、分母は2つの要因の差 \(u - d\) です。
問題解決のためのクイックチェックリスト:
• 利子率 \(r\) は年利ですか?もしそうなら、指数で \(h\) を掛けましたか?
• 配当(\(\delta\))はありますか?\(p^*\) の式で株価成長率を減らすのを忘れずに。
• 米国型オプションですか?イエスなら、すべてのノードで早期行使のチェックを!
• 正しい権利行使価格 \(K\) を使いましたか?
最後に:二項モデルは論理パズルです。ツリーを描いて逆算することに慣れてしまえば、Exam FAMの中で最も確実に得点できる問題の一つになります。ツリーを練習し続けてくださいね!