「散らばり」の世界へようこそ!

前回のレッスンでは、確率変数の「中心」を示す期待値(平均)について学びました。しかし、中心を知るだけでは半分しか理解したことになりません!例えば、2人のアーチェリー選手を想像してみてください。1人は毎回ど真ん中に当て、もう1人は左右に大きく外してばかり。平均をとればどちらも中心を射抜いているように見えますが、実力は全く違いますよね!

この章では、確率変数がどれくらい「散らばっているか」、あるいはどれくらい「リスクがあるか」を測る方法を学びます。これはアクチュアリーにとって非常に重要です。なぜなら、保険の世界で私たちが実際に価格をつけているのは、まさにこの不確実性(散らばり)だからです。最初は公式が難しそうに見えるかもしれませんが、大丈夫です。一つずつ丁寧に紐解いていきましょう!

1. 分散:データの「ばらつき」の指標

確率変数の分散(\( Var(X) \) または \( \sigma^2 \) と表記)は、平均からの距離を二乗したものの平均値です。データが平均の周りでどれくらい「ウロウロ」しているかを示してくれます。

概念的な公式

\( Var(X) = E[(X - \mu)^2] \)
ここで \( \mu \) は平均 \( E[X] \) です。

なぜ二乗するの?

良い質問ですね!もし平均からの距離をそのまま足し合わせると、正の差(平均より大きい値)と負の差(平均より小さい値)が打ち消し合ってしまい、合計がゼロになってしまいます。二乗することで数値をすべて正にし、散らばりの総量を正しく評価できるようにしているのです。

試験で必須の「ショートカット公式」

Exam Pの試験本番では、ほぼ間違いなくこのバージョンを使うことになります。計算がずっと楽になりますよ!
\( Var(X) = E[X^2] - (E[X])^2 \)

暗記のコツ:「二乗の平均 引く 平均の二乗」と唱えましょう。

\( E[X^2] \) の計算方法:
  • 離散型: \( \sum x^2 \cdot P(X=x) \)
  • 連続型: \( \int_{-\infty}^{\infty} x^2 \cdot f(x) \, dx \)

クイック復習: 分散を求めるには、「二次のモーメント」 \( E[X^2] \) を計算し、そこから「一次のモーメント」(平均)の二乗を引く、これだけです!

2. 標準偏差:現実の単位に戻す

分散は便利ですが、一つ困った点があります。それは単位が二乗になってしまうことです。もし \( X \) が「ドル」なら、分散の単位は「ドル平方」になってしまいます。これでは一体何を意味するのか分かりにくいですよね。そこで、元の単位に戻すために使うのが標準偏差(\( \sigma \))です。

公式: \( \sigma = \sqrt{Var(X)} \)

重要ポイント: 標準偏差は決して負になりません。二乗平均の平方根をとるため、必ず \( \geq 0 \) になります。もし試験中に負の標準偏差が出てきたら、計算を止めて、分散の公式における引き算を見直してくださいね!

例え話:ピザの配達

あるピザ屋が「平均配達時間は30分、標準偏差は5分」と言ったら、だいたい25分〜35分で届くと予想できますよね。でももし標準偏差が20分だったら、10分で届くこともあれば50分かかることもあるかもしれません。こちらの方が圧倒的に不確実性が高いということです!

3. 変動係数 (CV)

時には、2つの異なるものの散らばりを比較したいことがあります。標準偏差が100ドルの場合、それは「大きい」と言えるでしょうか?それはケースバイケースです!100万ドルの住宅保険において100ドルは微々たるものですが、200ドルの自転車保険において100ドルは非常に大きな金額ですよね。

変動係数 (Coefficient of Variation) は、標準偏差を平均に対する割合として表したものです。これは相対的なリスクを測る指標です。

公式: \( CV = \frac{\sigma}{E[X]} \)

注意: これは平均 \( E[X] \) がゼロでない場合にのみ使用します。

4. 分散の変換ルール

Exam Pでは、確率変数を変換(定数を足す、掛け合わせるなど)した時に分散がどう変化するかをよく問われます。これは平均のルールとは異なるので注意が必要です!

ルールA:定数の加算

\( Var(X + b) = Var(X) \)
なぜか? クラス全員のテストに5点プラスしても、平均点は上がりますが、学生間の散らばり(点数の差)は全く変わりませんよね。定数を足しても分散は変わらないのです。

ルールB:定数の乗算

\( Var(aX) = a^2 \cdot Var(X) \)
よくある間違い! 皆さん、定数の二乗を忘れてしまいがちです。もし保険金請求額がすべて2倍(\( 2X \))になれば、分散は4倍(\( 2^2 \))になります。

組み合わせた場合:

\( Var(aX + b) = a^2 \cdot Var(X) \)

クイック例題:

もし \( Var(X) = 10 \) なら、\( Var(3X + 5) \) はいくらになるでしょうか?
1. \( +5 \) は無視します(散らばりに影響しないため)。
2. \( 3 \) を二乗して \( 9 \) にします。
3. \( 9 \cdot 10 = 90 \)。答えは90です!

5. まとめと重要ポイント

豆知識: 分散は「二次中心モーメント」と呼ばれることもあります。アクチュアリー科学全体の中で、最も重要な概念の一つです!

重要ポイントの振り返り:

  • 分散 (\( \sigma^2 \)) は散らばりの二乗: \( E[X^2] - (E[X])^2 \)。
  • 標準偏差 (\( \sigma \)) は分散の平方根。元の単位に戻ります。
  • 変動係数 は \( \sigma / \mu \)。相対的なリスクを見る時に使います。
  • 定数のルール: 定数を足しても分散は変わらない。定数 \( a \) をかけると、分散は \( a^2 \) 倍になる。

避けるべき落とし穴:
\( (E[X])^2 \) と \( E[X^2] \) は全く別物であることを忘れないでください。例えば、公平なサイコロの目 \( X \) の場合、\( E[X] = 3.5 \) なので \( (E[X])^2 = 12.25 \) です。しかし、\( E[X^2] = (1^2+2^2+3^2+4^2+5^2+6^2)/6 = 15.16 \) となります。これらは全く違う数値なのです!

練習を続けましょう!分散の計算は、12回ほど繰り返せば自然と手が動くようになります。あなたなら大丈夫、頑張ってください!