ポートフォリオの数学へようこそ!

CFAレベルIの「定量的手法(Quantitative Methods)」の中で、最もエキサイティングな分野の一つへようこそ!「卵を一つのカゴに盛るな(分散投資)」という言葉を聞いたことがあるなら、この章の核心となる哲学はすでに理解できています。ここでは、個別の数値を見る段階から、投資のグループ(ポートフォリオ)が全体としてどのような動きをするかを見ていく段階へとステップアップします。

「自分は数学が苦手だ」と思っても心配いりません。これらの数式を、現実世界で納得できる論理的なステップに分解して解説していきます。このノートを読み終える頃には、プロのファンドマネージャーがどのようにリスクとリターンを計算し、より良いポートフォリオを構築しているのかが理解できているはずです。

1. 期待収益率(Expected Return):加重平均

ポートフォリオの期待収益率は、単に各資産の期待収益率の加重平均です。簡単に言うと、「パイの各一切れからどれくらいの利益が見込めるか」がわかっているなら、それぞれのパイの大きさに応じて合計するだけです。

数式:
\( E(R_p) = \sum_{i=1}^{n} w_i E(R_i) \)

ここで:
\( w_i \) = 資産 \( i \) に投資しているポートフォリオの比率(ウェイト)
\( E(R_i) \) = 資産 \( i \) の期待収益率

例: 100ドル持っているとします。そのうち60ドルを株式A(期待収益率10%)に、40ドルを株式B(期待収益率5%)に投資しました。
ウェイトはそれぞれ0.60と0.40になります。
\( E(R_p) = (0.60 \times 10\%) + (0.40 \times 5\%) = 6\% + 2\% = 8\% \)

避けるべきよくあるミス: ウェイトの合計が必ず1.0(100%)になるか確認しましょう。もし合わなければ、資産を見落としているか、計算ミスをしています!

重要ポイント:

ポートフォリオの期待収益率は単純な線形結合です。特別な「数学マジック」はなく、基本的な加重平均に過ぎません。

2. 分散と標準偏差(リスク)

CFAカリキュラムでは、リスクは通常標準偏差(\( \sigma \))として定義されます。これは、資産の実際の収益率が、期待収益率からどれくらい外れる可能性があるかを測定するものです。標準偏差が高いほど「ブレ」が大きく、不確実性が高いことを意味します。

知っていましたか? 標準偏差は分散(\( \sigma^2 \))の平方根です。数学的には分散の方が扱いやすいため、計算は分散から先に行うのが一般的です。しかし、リスクを説明する際には、収益率と同じ単位(%)で表せる標準偏差を使います。

「通勤」の例え:
毎朝の通勤を想像してみてください。毎日ぴったり30分で着くなら、あなたの「標準偏差」はゼロです。もしある日は20分、ある日は40分かかるなら、あなたの「期待」時間は30分のままですが、リスク(標準偏差)はずっと高くなります。いつ到着するかが予測しづらいからです!

3. 共分散と相関係数:資産の「ダンス」

これはポートフォリオ数学の中で最も重要な概念です。ポートフォリオを理解するには、資産を単独で見るだけでは不十分です。それらが一緒に動いているのか、バラバラに動いているのか、あるいは全く関係ないのかを確認しなければなりません。

A. 共分散(\( Cov_{1,2} \))

共分散は、2つの変数がどれくらい一緒に動くかを測定します。
- 正の共分散: 資産Aが上がると、資産Bも上がる傾向がある。
- 負の共分散: 資産Aが上がると、資産Bは下がる傾向がある。
- ゼロの共分散: 線形的な関係がない。

B. 相関係数(\( \rho_{1,2} \))

共分散は値がどんな数値(145.2や0.003など)にもなり得るため、解釈が困難です。相関係数は共分散を「標準化」したもので、常に -1.0 から +1.0 の間に収まります。

数式:
\( \rho_{1,2} = \frac{Cov_{1,2}}{\sigma_1 \sigma_2} \)

クイック復習ボックス:
+1.0 = 完全な正の相関(完全に連動して動く)。
0.0 = 相関なし(独立している)。
-1.0 = 完全な負の相関(完全に逆方向に動く)。

重要ポイント:

相関係数は共分散の「タキシード」のようなものです。関係性を一目でわかるように、きれいに整えて見せてくれます。

4. ポートフォリオの分散:分散投資の「魔法」

ポートフォリオのリスク計算は、単なる加重平均ではありません。なぜなら、資産同士が互いのリスクを相殺し合えるからです。もし株式Aが下がった時に株式Bが上がれば、ポートフォリオ全体は安定しますよね!

数式(2資産ポートフォリオの場合):
\( \sigma_p^2 = w_1^2 \sigma_1^2 + w_2^2 \sigma_2^2 + 2w_1 w_2 Cov_{1,2} \)

待ってください!式に怯える必要はありません。2つのパートに分解してみましょう。
1. 個別のリスク: \( w_1^2 \sigma_1^2 + w_2^2 \sigma_2^2 \) (これは資産自体のリスクです)。
2. 相互作用項: \( 2w_1 w_2 Cov_{1,2} \) (ここが魔法が起こる場所です!)。

なぜこれが重要なのか:
もし共分散が低かったり負の値だったりすれば、式の第3項が小さくなるか負になり、ポートフォリオ全体の分散が減少します。これこそが分散投資の数学的証明です。リスクの高い2つの資産を組み合わせることで、ずっとリスクの低いポートフォリオを作ることができるのです。

覚え方のコツ: この式は代数で習う \( (a+b)^2 = a^2 + b^2 + 2ab \) の展開公式と非常によく似ています!

5. ロイの安全第一比率(Roy’s Safety-First Ratio)

投資家によっては、「平均的な」リスクよりも、「目標リターンを下回ること(例:生活費の支払いに必要な最低限の額を下回ること)」を心配する場合があります。これをショートフォール・リスク(下振れリスク)と呼びます。

ロイの安全第一比率(SF比率)は、目標リターン(閾値)を下回る確率を最小化するポートフォリオを選ぶのに役立ちます。

数式:
\( SF\ Ratio = \frac{E(R_p) - R_L}{\sigma_p} \)

ここで:
\( R_L \) = 閾値リターン(Limit Return)(投資家が許容できる最低限のリターン)。

使い方:
SF比率は高ければ高いほど良いです。
比率が高いということは、期待収益率が「危険ゾーン」から標準偏差の数倍分だけ離れていることを意味します。崖っぷちから、より遠くに立っているようなものです。

例:
ポートフォリオA:期待収益率10%、標準偏差5%
ポートフォリオB:期待収益率15%、標準偏差10%
最低限必要なリターン(\( R_L \))が5%の場合:
SF比率A = \( (10 - 5) / 5 = 1.0 \)
SF比率B = \( (15 - 5) / 10 = 1.0 \)
この場合、両者は同じです。もしポートフォリオAの比率が1.2であれば、Aを選ぶべきです!

重要ポイント:

ロイの安全第一比率は、まさに「安全第一」です。目標を達成できない可能性を最小化するために、最も比率が高いポートフォリオを選びましょう。

まとめチェックリスト

練習問題に進む前に、以下のことができるか確認してください:
1. 期待収益率の加重平均を計算できる。
2. 共分散相関係数の違いを説明できる。
3. 低い相関がどのようにポートフォリオの分散を減らすのか理解している。
4. ロイの安全第一比率を計算し、解釈できる(高いほど良い!)。

その調子です!あなたは成功するアナリストとそうでないアナリストを分ける、数学的な基盤を築いています。あなたなら絶対に大丈夫です!