集計損失の世界へようこそ!
未来の保険数理士の皆さん、こんにちは!FAM(Fundamentals of Actuarial Mathematics)の学習を進める中で、これまでは「個々の請求額(Severity)」と「請求の発生件数(Frequency)」に多くの時間を費やしてきたことでしょう。ここでは、それらを組み合わせて「集計損失(Aggregate Loss, \(S\))」を扱います。これは、一定期間内に保険会社が支払う総額のことです。
この章では、畳み込み法(Convolution Method)を使ってその総損失の分布を計算する方法と、ストップロス保険(Stop-Loss Insurance)の支払額を計算する方法を探ります。これらの用語が難しそうに聞こえても心配しないでください。一つずつ、分かりやすい形に噛み砕いて解説していきます!
1. 畳み込み法:すべてを足し合わせる
2つの謎の箱があると考えてみてください。箱Aにはランダムな金額が入っており、箱Bにもランダムな金額が入っています。畳み込み(Convolution)とは、両方の箱を合わせたときの「合計金額」がいくらになるか、その確率を求めるための数学的な手法に過ぎません。
アクチュアリーの用語で言えば、\(X_1\) を最初の請求額、\(X_2\) を2番目の請求額としたとき、集計損失は \(S = X_1 + X_2\) となります。各請求が独立である場合、畳み込み法を使って \(S\) の確率分布を求めます。
公式の仕組み
離散型確率変数の場合、総損失 \(S\) が特定の値 \(x\) になる確率は次のように表せます。
\(f_S(x) = P(S=x) = \sum_{y} f_{X_1}(y) \cdot f_{X_2}(x-y)\)
こう考えてみてください: 合計で \(x\) になるためには、最初の請求から \(y\)、2番目の請求からその残りの分(\(x-y\))が出るという組み合わせが考えられます。その可能性があるすべてのケースを合計するだけです!
ステップバイステップの例
請求1(\(X_1\))と請求2(\(X_2\))がどちらも以下の分布に従うとします。
- \(P(X=1) = 0.7\)
- \(P(X=2) = 0.3\)
総損失 \(S = X_1 + X_2\) が 3 になる確率は?
1. 組み合わせを特定する: 合計が3になるには(1, 2)か(2, 1)の組み合わせがあります。
2. 確率を計算する:
- ケース1:\(P(X_1=1) \cdot P(X_2=2) = 0.7 \cdot 0.3 = 0.21\)
- ケース2:\(P(X_1=2) \cdot P(X_2=1) = 0.3 \cdot 0.7 = 0.21\)
3. 合計する: \(0.21 + 0.21 = 0.42\)。
したがって、\(f_S(3) = 0.42\) となります。
クイックヒント: 請求が3つ以上ある場合(例:\(S = X_1 + X_2 + X_3\))、最初の2つを畳み込んで「一時的な」分布を作り、その結果を3つ目の請求とさらに畳み込めばOKです!
よくある間違い: 分布の確率をすべて足した合計が1.0になることを必ず確認してください。もし1にならないなら、どこかで組み合わせを見落としています!
重要ポイント:
畳み込みとは、独立した確率変数の合計の確率分布を、その合計に至るすべての可能な結果の組み合わせを反復することで決定するプロセスです。
2. ストップロス保険:「全体」に対する免責
自動車事故における「免責金額(deductible)」については既にご存知でしょう。ストップロス保険(Stop-Loss Insurance)は似ていますが、これは年間の「請求総額」に対して適用されます。これは、多くの請求が一度に発生するような「悪い年」に備えて、被保険者(従業員のために自己保険をかけている企業など)を保護するものです。
この保険は、集計損失 \(S\) がストップロス免責金額(\(d\))を超えた分を支払います。
期待支払額の公式
ストップロス保険の期待支払額は \(E[(S-d)_+]\) と表記されます。小さな「+」記号は「値が正の場合のみ計算する(\(S < d\) の場合は支払額はゼロ)」という意味です。
離散分布での計算式は以下の通りです。
\(E[(S-d)_+] = \sum_{x > d} (x-d) \cdot P(S=x)\)
計算の手順:
1. 集計損失 \(S\) のすべての可能な値を書き出す。
2. 各値が発生する確率を求める。
3. 免責金額 \(d\) より大きい値 \(x\) について、\(x - d\) を計算する。
4. その結果に \(x\) の発生確率を掛ける。
5. それらの積をすべて合計する。
便利な関係式
FAM試験のために必ず覚えておくべき有名な等式があります。
\(E[S] = E[S \wedge d] + E[(S-d)_+]\)
平たく言うと:平均総損失 = 被保険者が支払う平均額(限定損失) + 保険会社が支払う平均額(ストップロス支払額)ということです。
豆知識: これは問題を解く最も早い方法になることが多いです!もし試験で \(E[S]\) と \(E[S \wedge d]\) が与えられていれば、面倒な合計計算をする必要はありません。引き算をするだけで答えが出ます!
重要ポイント:
ストップロス保険は集計分布の「裾(tail)」をカバーします。期待コストは、免責金額を超えた損失の加重平均です。
3. 役立つショートカットとテクニック
離散型ストップロスのための「漸化式」
もし免責金額 \(d+1\) の期待支払額を求める必要があり、すでに \(d\) の場合の値を計算済みであれば、このショートカットが使えます(\(S\) が整数値のみをとる場合):
\(E[(S-(d+1))_+] = E[(S-d)_+] - P(S > d)\)
覚え方: 階段をイメージしてください。免責金額が1段上がると、その段以上である確率分だけ期待支払額が減る、という考え方です。
ゼロ請求の問題
請求が全く発生しない(\(N=0\))可能性がある場合、\(S=0\) となります。
- \(d=0\) の場合、\(E[(S-0)_+] = E[S]\) となります。
- \(d > 0\) の場合、0 は免責金額を超えないため、ゼロケースはストップロス支払いに寄与しません。
成功のためのチェックリスト
1. 畳み込みができますか? 2つの独立した分布が与えられたとき、それらの和の確率を求められますか?
2. ストップロスの公式を知っていますか? 直接合計する方法と、\(E[S] - E[S \wedge d]\) を使う方法の両方で \(E[(S-d)_+]\) を計算できますか?
3. 免責金額に注意: ストップロスにおいて、免責金額 \(d\) は「合計」に適用されるものであり、個々の請求に適用されるものではありません。混同しないように!
最初は難しく感じるかもしれませんが、大丈夫です!集計モデルは試験の中でも計算量が多い部分の一つです。「2つのサイコロの合計」のような簡単な問題を練習して畳み込みのリズムをつかめば、ストップロスの論理も自然と身についてきます。きっと大丈夫です!