はじめに:過去の積み重ねが重要!

自己回帰(AR)モデルの世界へようこそ!もしあなたがこれまで「昨晩夜更かししたから今日は眠いんだ」と考えたことがあるなら、あなたはすでにARモデルの核心となるロジックを理解しています。時系列データにおいて、昨日の出来事は通常、今日の出来事に直接影響を与えるからです。

この章では、その直感的な理解を数式に落とし込む方法を学びます。最初は数式が難しく見えるかもしれませんが、大丈夫です。一つずつ分解して解説していきます。このノートを読み終える頃には、ARモデルが皆さんがすでに知っている線形回帰の応用版にすぎないことがわかるはずです!

1. 自己回帰モデルとは何か?

「自己回帰(Autoregressive)」という言葉は難しそうに聞こえますが、語源に注目してみましょう。Auto(自分自身)とRegressive(回帰・遡る)です。つまり、変数を過去の自分自身の値に対して回帰させるモデルのことです。

AR(1) モデル:基礎の基礎

最もシンプルなものがAR(1)モデルです。現在の値(\(x_t\))が、直前の値(\(x_{t-1}\))のみに依存するモデルです。

AR(1)モデルの数式は以下の通りです:
\(x_t = c + \phi x_{t-1} + \epsilon_t\)

各要素の解説:

  • \(x_t\):時点 \(t\) における系列の値(例:今日の株価)。
  • \(c\):定数項(切片)。
  • \(\phi\) (ファイ):自己回帰係数。「今日」が「昨日」とどれだけ強く結びついているかを示します。
  • \(x_{t-1}\):一つ前の時点における値(昨日の株価)。
  • \(\epsilon_t\):ホワイトノイズまたは誤差項。予測不可能なランダムな変動を表します。

例え:サーモスタットを思い浮かべてください。昨日の部屋の温度が70度(\(x_{t-1}\))なら、今日もおよそ70度に近い温度になるはずです。ただし、天候などによる多少のランダムな変動(\(\epsilon_t\))は加わります。

復習:誤差項(\(\epsilon_t\))について

誤差項は、平均が0、分散が一定(\(\sigma^2\))の正規分布に従うと仮定します。これがモデルにおける「予測不能な部分」です。

2. 定常性:「輪ゴム」のルール

AR(1)モデルを長期的な予測に役立てるためには、通常定常性(stationarity)が必要です。これは、平均や分散といった統計的な性質が時間とともに変化しないことを意味します。

AR(1)の定常性に関する黄金律:
そのモデルが定常であるための条件は、\(|\phi| < 1\)であることです。

なぜこれが重要なのでしょうか?

  • \(|\phi| < 1\) の場合:系列は「輪ゴム」のようなものです。ランダムなショック(\(\epsilon_t\))によって値が押し出されても、最終的には平均値へと引き戻されます。
  • \(\phi = 1\) の場合:これはランダムウォークと呼ばれます。中心に戻ろうとする「引き戻し」がありません。すべてのショックの影響が永久にシステムに蓄積され続けます。
  • \(|\phi| > 1\) の場合:系列は「爆発」し、無限大へと発散してしまいます。リスクモデリングにおいて、これは望ましくありません!

豆知識:株価の記述には、しばしばランダムウォーク(\(\phi = 1\))が使われます。今日の価格が明日の価格を予測する上で最良の指標であり、変化は完全にランダムだと考えられているからです。

3. AR(1)モデルの主要統計量

定常的なAR(1)モデル(\(|\phi| < 1\))を扱う際、試験のために暗記すべき数式が3つあります:

1. 平均(長期平均):
\(\mu = \frac{c}{1 - \phi}\)
よくある間違い:平均を単に \(c\) だと思い込むこと。違います!必ず \((1 - \phi)\) で割る必要があります。

2. 分散:
\(Var(x_t) = \frac{\sigma^2}{1 - \phi^2}\)
注意:\(\sigma^2\) は誤差項の分散です。

3. 自己相関(ACF):
\(x_t\) と \(x_{t-k}\)(\(k\)期前の値)の間の相関は以下の通りです:
\(\rho_k = \phi^k\)
これは、時間の経過(ラグ \(k\))とともに相関が指数関数的に減衰することを意味します。

重要なポイント:AR(1)モデルでは、過去の影響は時間とともに薄れていきますが、数学的に完全にゼロになることはありません。

4. 発展:AR(p)モデル

昨日のデータだけでは不十分な場合もあります。過去3日分が重要かもしれません!これがAR(p)モデルであり、\(p\) は含める「ラグ」の数です。

AR(p)の式:
\(x_t = c + \phi_1 x_{t-1} + \phi_2 x_{t-2} + ... + \phi_p x_{t-p} + \epsilon_t\)

AR(p)の定常性:
AR(1)よりも複雑です。「\(\phi\) 係数の和が1未満」というのは目安にはなりますが、厳密な条件は「特性方程式の根が単位円の外側にあること」となります。Exam SRMの試験対策としては、モデルが発散しないように「すべての \(\phi\) 係数が十分に小さい」必要があると覚えておきましょう。

5. ARモデルの識別:PACFのトリック

データセットがARモデルなのか、他のモデル(MAモデルなど)なのかをどうやって見分けるのでしょうか?2つのプロットを確認します:

  1. ACF(自己相関関数):ARモデルの場合、ACFはテイルオフ(tails off)します(徐々に減少していきます)。
  2. PACF(偏自己相関関数):これはARモデルを見分けるための「魔法のツール」です。ARモデルの場合、PACFはラグ \(p\) の後にカットオフ(cuts off)します。

暗記のコツ:
ARモデル = PACFがカットオフする。(「AP(Advanced Placement)」のように覚えましょう)。
もしPACFに有意なバーが2本あり、その後ゼロになるなら、それはAR(2)モデルの可能性が高いです。

6. ARモデルによる予測

ARモデルで未来を予測するのはステップバイステップのプロセスです。次の値を求めるには、直近の既知の値を数式に代入します。

ステップバイステップの例(AR(1)):
\(x_t = 5 + 0.5 x_{t-1} + \epsilon_t\) とします。今日の値(\(x_t\))は10です。
1. \(t+1\) の予測:未来の誤差(\(\epsilon_{t+1}\))はわからないため、0と仮定します。
\(\hat{x}_{t+1} = 5 + 0.5(10) = 10\)
2. \(t+2\) の予測:先ほど求めた \(t+1\) の予測値を新しい入力として使います。
\(\hat{x}_{t+2} = 5 + 0.5(10) = 10\)

注意:この特定の例では、長期平均が \(5 / (1 - 0.5) = 10\) であるため、予測値が10のままになりました。もし初期値が異なれば、予測値は徐々に10へと収束していきます。

7. まとめと重要なポイント

記法に怖気づく必要はありません!試験のためにこれだけは絶対に覚えておきましょう:

  • AR(1)の式: \(x_t = c + \phi x_{t-1} + \epsilon_t\)
  • 定常性: \(|\phi| < 1\) である必要がある。\(\phi = 1\) なら定常ではないランダムウォーク。
  • 平均: \(\mu = c / (1 - \phi)\)
  • 識別: ARモデルはACFがテイルオフし、PACFがラグ \(p\) でカットオフする。
  • 予測: 直前の値を数式に代入し、誤差項をゼロに設定する。

最後に応援メッセージ:ARモデルは、時系列分析のほぼすべてにおける「構成要素」です。まずはAR(1)の数式をマスターしましょう。そうすれば、この章の残りの部分は簡単に理解できるようになります。あなたなら大丈夫!