未来へようこそ:時系列分析による予測
時系列モデルセクションのこれまでの章では、パターンの特定、定常性の確認、そしてAR、MA、ARMAといったモデルの適合方法について学んできました。しかし、なぜ私たちはわざわざこのような作業を行うのでしょうか?そのほとんどの理由は、次に何が起こるかを知りたいからです。
この章では、点予測(未来に対する最良の推測値)と予測区間(その推測の確信度)に焦点を当てます。ハリケーンの進路予測図を見て、嵐の予測地点が遠ざかるにつれて「不確実性の円錐(cone of uncertainty)」が広がっていくのを目にしたことはありませんか?実は、それこそがこの章で扱う核心的な直感なのです!
数学的な式を見て最初は難しく感じるかもしれませんが、大丈夫です。一歩ずつ丁寧に解説していくので、自信を持ってExam SRMの試験問題に臨めるようになりましょう。
1. 点予測:最良の推測値を得る
点予測(Point Forecast)とは、時系列データの未来の値を最もよく表す単一の数値のことです。SRMでは、通常、時点 \(T\) において未来の時点 \(T+h\) を予測する値を \(\hat{y}_{T+h}\) と表記します。
予測の黄金律
過去(データがある場所)から未来(データがない場所)へ進む際、誤差項(\(\epsilon\))については1つの単純なルールに従います。
将来のランダムな誤差はゼロであると仮定します。
なぜでしょうか?それは、ホワイトノイズの期待値がゼロだからです。「ランダムなショック」を予測することは不可能なため、それらが系列を特定の方向に押し流すことはないと考えるのが最も賢明な予測方法なのです。
モデルごとの予測計算方法
1. AR(1) モデル:
AR(1) モデルの式は \(y_{t} = \phi_0 + \phi_1 y_{t-1} + \epsilon_t\) です。
1期先を予測する場合 (\(h=1\)):
\(\hat{y}_{T+1} = \phi_0 + \phi_1 y_T\)
2期先を予測する場合 (\(h=2\)):
\(\hat{y}_{T+2} = \phi_0 + \phi_1 \hat{y}_{T+1}\)
2. MA(1) モデル:
式は \(y_t = c + \epsilon_t + \theta_1 \epsilon_{t-1}\) です。
1期先を予測する場合:
\(\hat{y}_{T+1} = c + \theta_1 \epsilon_T\) (ここで \(\epsilon_T\) は、最後に観測された時点の残差です)。
2期先を予測する場合:
\(\hat{y}_{T+2} = c\)
あれ、なぜ \(\theta\) の項が消えたのでしょうか? それは2期先を予測する際には \(\epsilon_{T+1}\) を扱うことになりますが、未来の誤差はゼロと仮定しているからです!
重要なポイント: MA(q) モデルの場合、予測値は \(q\) 期を過ぎると平均値に完全に戻ります。一方、AR(p) モデルの場合、予測値は時間の経過とともに徐々に平均値へと収束していきます。
2. 予測区間:不確実性を測定する
どんなに優れたモデルでも、完璧に的中させることはできません。予測区間(この文脈では信頼区間とも呼ばれます)は、未来の値が収まる可能性が高い範囲を示してくれます。
予測区間の構成
線形回帰と同様に、区間は以下の式で構築されます。
予測値 \(\pm\) (臨界値 \(\times\) 標準誤差)
95%区間の場合は、以下のようになります。
\(\hat{y}_{T+h} \pm 1.96 \times \sqrt{Var(e_{T+h})}\)
ここで \(e_{T+h}\) は予測誤差(実際の未来の値と予測値との差)です。
なぜ「円錐」が広がるのか
このように考えてみてください。1時間後の気温なら高い精度で予想できるかもしれませんが、10日後の気温を正確に当てるのはずっと難しいですよね。
時系列データにおいても同じことが言えます:
- 標準誤差は、予測期間(リードタイム \(h\))が長くなるほど、ほぼ例外なく増加します。
- 未来を予測しようとすればするほど、まだ見えていない「ランダムなショック」が積み重なっていきます。
- その結果、区間は広がり(「ファン」や「円錐」のような形になります)。
クイック復習: - 点予測 = 未来の範囲の「中央値」 - 予測区間 = 不確実性を反映した「広がり」 - \(h\) が大きくなるほど、不確実性も増大する
3. 予測誤差の分散を計算する
ここは多くの学生がつまずきやすい箇所ですが、実はルールにはパターンがあります!AR(1) モデル \(y_t = \phi y_{t-1} + \epsilon_t\) を例に見てみましょう(簡単のため平均は0とします)。
1期先 (h=1):
誤差は次のランダムショック \(\epsilon_{T+1}\) そのものです。
分散は単純に \(\sigma^2_\epsilon\) となります。
2期先 (h=2):
誤差には、1期目のショックと2期目のショックの両方が含まれます。
分散は \(\sigma^2_\epsilon (1 + \phi^2)\) となります。
h期先:
分散は \(\sigma^2_\epsilon \sum_{j=0}^{h-1} \psi_j^2\) となります。
注:\(\psi\)(プサイ)の重みは、モデルを無限次MA過程として書き直したものを表します。SRMでは、\(h \rightarrow \infty\) となるとき、予測誤差の分散がプロセス分散(時系列データ全体の合計分散)に近づくことを理解しておけば十分です。
豆知識: 時系列データが定常であれば、予測区間は永遠に広がり続けることはありません。最終的には、データの全体的な分散に基づく最大幅に落ち着きます。
4. よくある間違い
間違い1:定数項を忘れること。
\(\hat{y}_{T+1}\) を計算するとき、切片(\(\phi_0\) や \(c\))を忘れないようにしましょう。これを省いてしまうと、予測値がゼロ方向に偏ってしまいます。
間違い2:「残差」と「誤差」を混同すること。
MA(q) モデルでは、すでに持っているデータから計算した残差を使います。未来の時点については0を使います。未来の誤差を「推測」しようとしてはいけません!
間違い3:間違ったZスコアを使うこと。
95%区間なら1.96、90%区間なら1.645を使います。問題文で何を求められているか、必ず再確認してください!
5. まとめと重要ポイント
Exam SRMに向けた全体像:
- 予測は反復的: 現在の値を使って次を予測し、その予測値を使ってさらにその先を予測します。
- 平均回帰: 定常モデルでは、長期的な予測値は常にプロセスの平均値に収束します。
- 誤差の累積: 予測区間は先を見越すほど広がります。これは、まだ予測できない未来の「ショック(\(\epsilon\))」が蓄積されるからです。
- MAモデルの限界: MAモデルの記憶はすぐに失われます。\(q\) 期を過ぎると予測値は平均値そのものとなり、予測区間は一定になります。
あなたなら大丈夫です!AR(1)の予測計算をいくつか手で練習してみれば、パターンが自然と身についてきますよ。