導入:データの意味を読み解く
ようこそ!アクチュアリーの世界では、私たちはしばしば探偵のような役割を果たします。データを見て、次のように問いかけます。「この結果は単なるラッキーな偶然だろうか、それとも本当の傾向なのだろうか?」 例えば、新しい健康増進の取り組みによって保険金の請求が減ったように見えるとき、それが単なる偶然ではないことをどうやって証明すればよいでしょうか?
この章では、特定のシナリオにおける仮説検定(Hypothesis Testing)に焦点を当てます。1つのグループをテストする方法、独立した2つのグループを比較する方法、「紐付けられた」データ(対応のあるデータ)の扱い方、そしてデータの分布について前提を置きたくない場合に使用する「シャッフル」を応用した賢い手法、順列検定(Permutation Test)について学んでいきましょう。
注意: この章では、帰無仮説(\(H_0\))やp値などの基本的な概念はすでに理解していることを前提としています。もし復習が必要な場合は、「仮説検定の概念、過誤、および検出力」の章をチェックしてみてください。
1. 1標本検定:単一のグループをチェックする
1標本検定は、単一の母集団から得られた標本を、既知の値(「基準値」)と比較したい場合に使用されます。
正規分布の平均(\(\mu\))の検定
データが正規分布に従うと仮定する場合、通常は平均をテストします。これには主に2つのパターンがあります。
- ケースA:分散(\(\sigma^2\))が既知の場合 Z検定を使用します。検定統計量は以下の通りです:
\(Z = \frac{\bar{X} - \mu_0}{\sigma / \sqrt{n}} \sim N(0, 1)\) - ケースB:分散(\(\sigma^2\))が未知の場合 現実の世界ではこちらの方がはるかに一般的です!この場合はt検定を使用します。母分散\(\sigma\)の代わりに標本標準偏差\(s\)を使用します。検定統計量は以下の通りです:
\(t = \frac{\bar{X} - \mu_0}{s / \sqrt{n}} \sim t_{n-1}\)
正規分布の分散(\(\sigma^2\))の検定
アクチュアリーにとって、平均よりもリスク(変動性)の方が重要な場合があります。分散が特定の値(\(\sigma^2_0\))に等しいかどうかをテストするには、カイ二乗検定を使用します。
\(\chi^2 = \frac{(n-1)S^2}{\sigma^2_0} \sim \chi^2_{n-1}\)
比率(二項分布)と発生率(ポアソン分布)の検定
二項分布(\(p\))やポアソン分布(\(\lambda\))のデータについては、標本サイズが十分に大きい場合、通常は正規近似を利用します。
二項分布の場合: \(Z = \frac{\hat{p} - p_0}{\sqrt{\frac{p_0(1-p_0)}{n}}} \sim N(0, 1)\)
ポアソン分布の場合: \(Z = \frac{\bar{X} - \lambda_0}{\sqrt{\lambda_0 / n}} \sim N(0, 1)\)
クイックレビュー: 分散が既知かどうかを常に確認しましょう。もし未知で、かつデータが正規分布に従うなら、\(t\)分布の出番です!
2. 2標本検定:独立した2つのグループを比較する
アクチュアリーは、保険契約者グループAとグループBの請求額を比較するなど、2つの異なるグループを比較することがよくあります。
2つの正規分布の平均の比較
\(\mu_1 = \mu_2\)かどうかをテストするために、差 \(\bar{X}_1 - \bar{X}_2\) に注目します。CS1のシラバスでは、2つの母集団が等しい未知の分散(\(\sigma^2_1 = \sigma^2_2\))を持つと仮定する「基本」ケースに焦点を当てます。まず、プールされた標本分散(\(s_p^2\))を計算します。
\(s_p^2 = \frac{(n_1-1)s_1^2 + (n_2-1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2}\)
検定統計量は以下の通りです:
\(t = \frac{(\bar{X}_1 - \bar{X}_2) - 0}{s_p \sqrt{\frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2}}} \sim t_{n_1+n_2-2}\)
2つの正規分布の分散の比較
一方のグループが他方よりも変動が激しいかどうかを確認するには、F検定を使用します。大きい方の標本分散を小さい方の標本分散で割ります。
\(F = \frac{s_1^2}{s_2^2} \sim F_{n_1-1, n_2-1}\)
2標本の二項分布とポアソン分布
2つの比率(\(p_1\) と \(p_2\))や2つのポアソン発生率(\(\lambda_1\) と \(\lambda_2\))を比較する場合も、大標本であれば正規近似を使用します。通常、2つのグループが同一であるという帰無仮説の下で、標準誤差の「プールされた」推定値を使用します。
重要なポイント: 2標本検定では、グループが独立している必要があります。もし同じ人物が両方のグループに含まれている場合は、次のセクションの方法が必要です!
3. 対応のあるデータ:前後比較
例えば、10人の血圧を医療的処置の「前」に測定し、その後「同じ」10人の血圧を「後」に測定したとします。これらは独立した標本ではなく、対応のある(paired)データです。
コツ: これらを2つの標本として扱わないでください。代わりに、各ペアの差を計算します。
\(D_i = X_i - Y_i\)
そして、これらの差(\(D\))に対して1標本t検定を実行するだけです。帰無仮説は通常 \(H_0: \mu_D = 0\) となります。
\(t = \frac{\bar{D} - 0}{s_D / \sqrt{n}} \sim t_{n-1}\)
よくある間違い: 対応のあるデータに対して2標本検定を行ってしまうこと。これは試験でよくある落とし穴です!データポイントが「対」になっている場合や、同じ対象の異なる時点を表している場合は、必ず「対応のある」アプローチを使用しましょう。
4. 順列検定:ノンパラメトリックなアプローチ
これまでの検定はすべて、特定の分布(正規分布など)を前提としていました。しかし、データが奇妙な形をしていたり、中心極限定理が適用できないほど標本サイズが小さかったりしたらどうすればよいでしょうか?そこで順列検定(Permutation Test)の登場です。
コンセプト:「トランプをシャッフルするように」
グループAとグループBの2つがあり、平均値に差が見られたとします。順列検定では次のように考えます。「もしグループのラベル(AかBか)に実際には意味がないとしたら、ラベルをランダムに付け替えるだけで、これほど大きな差が偶然に生じる確率はどのくらいだろうか?」
ステップ・バイ・ステップの手順:
- 観測された検定統計量(例:グループAとBの平均の差)を計算します。
- 両方のグループのすべてのデータを1つの大きな「プール」にまとめます。
- 順列(シャッフル): データをランダムにシャッフルし、元のサイズと同じ2つの新しいグループに分割します。
- このシャッフルされたバージョンで平均の差を計算します。
- この「シャッフル」を数千回繰り返し、差の分布を作成します。
- p値は、シャッフルによって生じた差のうち、元の観測された差と同じか、それ以上に極端な値の割合となります。
ご存知ですか? 順列検定はデータの「形」について一切の仮定を置かないため、非常に強力です。Paper B(実技試験)では、よくRを使用して実行されます。
試験に向けた要約チェックリスト
- 標本数を確認する: 1つのグループを基準値と比較しているか、独立した2つのグループか、それとも対応のあるデータか?
- 分布をチェックする: 正規分布で分散が未知の場合は、\(t\)検定を使用。
- 大標本の場合: 二項分布やポアソン分布では正規近似を使用。
- グループに関連性はあるか? 関連があるなら、差(\(D_i\))を計算して対応のある\(t\)検定を使用。
- 分布の指定がない? 順列検定(ラベルのシャッフル)のアプローチを検討。
合格へのヒント: Paper Aでは、数表を使って手計算することになるでしょう。Paper Bでは、t.test() などのR関数を使用します。どちらの形式でも出力を正しく解釈できるようにしておきましょう!