非上場企業評価の世界へようこそ!
CFAレベルIIの株式評価セクションでは、Appleやコカ・コーラのような上場企業について多くの時間を費やします。しかし、家族経営の企業やテック系スタートアップ、あるいは巨大な非上場コングロマリットを評価する必要がある場合はどうすればよいでしょうか?この章のテーマはまさにそれです!非上場企業評価(Private Company Valuation)は、M&A(合併・買収)やIPO(新規株式公開)、さらには税務上の目的において不可欠なスキルです。ファイナンスの基本原則は同じですが、非上場企業の評価には、追加の「探偵作業」と特有の調整が必要となります。
上場企業の評価に比べて少し「主観的」に感じるかもしれませんが、心配はいりません。このノートを読み終える頃には、CFA試験でどんな非上場企業の問題が出ても対応できる明確なツールキットが身についているはずです!
1. 非上場企業 vs 上場企業:何が違うのか?
計算に入る前に、まず置かれている環境を理解しましょう。非上場企業は、いくつかの重要な点で上場企業と異なります。
- ライフサイクルの段階: 非上場企業は、小規模なスタートアップから成熟した巨大企業まで多岐にわたります。
- 規模: 一般的に規模が小さく、リスクが高いうえに資本へのアクセスが限られています。
- 情報の質: SEC(米国証券取引委員会)などの規制当局から完全な財務諸表の開示を義務付けられていないため、情報の透明性が低いことがよくあります。
- 流動性: マイクロソフトの株式のように、ボタン一つで売却することはできません。
- 経営と所有: オーナーが経営者を兼務しているケースが多く、財務の境界線が「曖昧」になりがちです(例:オーナーの自家用車の費用を会社が負担しているなど)。
価値の基準(Standards of Value)
非上場企業の評価において、「価値」は誰が問いかけているかによって変わります。価値の基準(Standard of value)とは、どの定義を用いて価値を算定するかを指します。
- 公正市場価値(Fair Market Value): 意欲ある買い手と売り手が合意する価格(主に税務目的で使用)。
- 投資価値(Investment Value): 特定の買い手にとっての価値(シナジー効果を含む)。
- 本源的価値(Intrinsic Value): ファンダメンタルズに基づく「真の」価値。
クイックレビュー: 買い手が、自社と合併させることでコスト削減が可能だと考えているなら、それは公正市場価値ではなく投資価値を検討しています。
2. 財務諸表の正規化(Normalizing)
非上場企業のオーナーは、個人的な支出を事業経費として計上したり、「特別な」給与を自分に支払ったりすることが多いため、会計数値を正規化(ノーマライズ)する必要があります。これは「窓を拭く」ような作業で、真の利益をはっきりと見極めるために行います。
一般的な調整項目:
- 役員報酬: オーナーが自分に50万ドルを支払っていても、プロの経営者なら20万ドルで済む場合、その差額30万ドルを利益に加算(バック)します。
- 非経常的な項目: 一回限りの弁護士費用や災害による損失などを除外します。
- 個人的な支出: オーナーの家族旅行の費用を会社が払っているなら、それを利益に戻します!
- 不動産: 自社ビルを所有している場合、不動産事業と本来の事業運営を切り離すことがあります。
正規化のステップ:
1. 報告されているEBITDAから開始する。
2. 個人的または過剰な支出を利益に足し戻す。
3. 過小計上されている費用を差し引く(オーナーが給与を全く取っていない場合など)。
4. 結果として得られるのが正規化EBITDAです。
重要なポイント: 私たちが正規化を行うのは、中立的な第三者が経営した場合に、そのビジネスがどれだけの利益を生むかを把握するためです。
3. インカムアプローチ
このアプローチは、将来の期待収益の現在価値に基づいて企業を評価します。覚えておくべき主な手法は2つです。
A. フリーキャッシュフロー法(DCF法)
上場企業と同様に、FCFF(企業価値へのフリーキャッシュフロー)またはFCFE(株主価値へのフリーキャッシュフロー)を予測し、現在価値に割り引きます。ただし、非上場企業の場合はリスクが高いため、より高い割引率を使用することが一般的です。
B. キャピタライズ・キャッシュフロー法(CCM)
企業が安定しており、一定の成長率で成長している場合に使用します。基本的にはゴードン成長モデルと同じです!
\( V_0 = \frac{FCF_1}{r - g} \)
割引率算出のための「ビルドアップ法」
非上場企業では「ベータ(Beta)」を簡単に算出できないため(株価がないため!)、割引率をゼロから積み上げる(build-up)手法をよく使います。
必要収益率 = 無リスク金利 + 株式リスクプレミアム + 規模プレミアム + 特定企業リスクプレミアム
豆知識: 「規模プレミアム」は、歴史的に小規模企業の方が大型株よりもリスクが高く、高いリターンを要求されるために加算されます。
クイックレビュー: ビルドアップ法では、CAPMのフレームワークを直接使うのではなく、個別のリスクプレミアムを足していくため、通常はベータを掛けることはしません。
4. マーケットアプローチ
これは不動産屋さんのアプローチに近いです。「隣の家はいくらで売れたか?」という考え方です。主に3つの手法があります。
- 類似上場企業比較法(GPCM): 類似した上場企業を探します。それらのマルチプル(EV/EBITDAなど)を使いますが、非上場株は売却しにくいため(流動性欠如)、ディスカウントを適用します。
- 類似取引比較法(GTM): 類似した非上場企業や上場企業の実際の買収事例を見ます。この価格には既に「支配権プレミアム」が含まれているため非常に有用です。
- 過去取引法(PTM): その同一企業における過去の株式売買実績を見ます。もし最近かつ第三者間での取引であれば、最も説得力のある証拠となります。
よくある間違い: リスクや成長性を考慮せずに、小さな非上場企業に上場企業のマルチプルを適用してしまうこと。「最も近い」マッチング相手を探すことが常に重要です!
5. 資産ベースアプローチ
この手法は、企業を構成要素の合計(資産マイナス負債)として評価します。黒字の継続企業(ゴーイング・コンサーン)には「最後の手段」として使われるのが一般的ですが、以下の場合には最適です。
- 清算シナリオの場合。
- 投資会社(不動産や株式を保有するだけの持ち株会社など)。
- ブランドや「のれん」を持たない非常に小規模なビジネス(トラック1台で運送業を営むようなケース)。
重要なポイント: 成功しているソフトウェア企業に対して資産ベースアプローチを使うと、将来の成長価値や人的資本の価値が反映されないため、算出価格が低すぎてしまいます。
6. 評価調整(「最後の仕上げ」)
企業の「ベースとなる価値」を算出したら、通常はディスカウント(割引)やプレミアム(割増)を適用する必要があります。これは試験で頻出のトピックです!
支配権プレミアム(Control Premium)
企業全体を買収する場合、経営者の交代や戦略変更など、意思決定が可能になります。この「権限」には価値があるため、支配権プレミアムを上乗せします。
支配権欠如ディスカウント(DLOC)
10%の株式しか買わない場合、支配権はありません。そのため、その株式価値は低くなります。
\( DLOC = 1 - [1 / (1 + \text{支配権プレミアム})] \)
流動性欠如ディスカウント(DLOM)
非上場株は売却が困難です。買い手を見つけるのに6ヶ月かかるかもしれません。投資家はその「資金が拘束される」リスクに対してディスカウントを要求します。
合計ディスカウントの計算
重要! DLOCとDLOMを単純に足し合わせてはいけません。乗法的に適用する必要があります。
合計ディスカウント = \( 1 - [(1 - DLOC) \times (1 - DLOM)] \)
例: DLOCが10%、DLOMが20%の場合:
合計ディスカウント = \( 1 - [(0.90) \times (0.80)] = 1 - 0.72 = 28\% \)。 (30%ではありません!)
覚え方: ディスカウントを店での「セール」のように考えてください。シャツが10%オフになった後、さらに20%オフクーポンを使う場合、まずは元の価格から10%引き、その新しい低い価格からさらに20%引くのと同じです。
成功のためのチェックリスト
- 価値の基準: 特定の買い手(投資価値)を評価しているのか、一般的な買い手(公正市場価値)を評価しているのかを必ず確認する。
- 正規化: DCFを行う前に、オーナーの給与や個人的な支出が調整されているか確認する。
- マルチプル: GTM(取引事例)を使うなら支配権プレミアムは既に数値に含まれている。GPCM(上場比較)を使うなら支配権プレミアムの加算が必要な場合がある。
- 数学: 乗法的なディスカウント計算の公式を練習すること。ここは点数を失いやすいポイントです!
最後に: 非上場企業評価の最も厄介な部分を乗り越えましたね!結局のところ、非上場企業の実態を反映させるためにデータを調整するということがすべてです。ディスカウント公式の練習を続ければ、すぐにマスターできますよ!